標的26 ページ28
彼女の力強い視線が私を射抜く。私は一度口を開くが、唇を噛み締めた。
なんで……なんで彼女が私の前世の名を知っている?そんなこと、普通の人間なら知るはずのない情報のはずだ。もし知る者がいるとするなら家族だけ。
……なんせ前世では友人はいなかったから。私がこんな性格だから一人も。けど……けれど私にはお姉ちゃんがいた。彼女がいたから寂しくなかった。
いろんなものを語り合って、いつもそばにいてくれて、そして私を守ってくれた。
優しくて、強くて、頼りになるお姉ちゃん。
それに対して私は泣き虫、弱くて……ずっとお姉ちゃんに甘える子供、
そんな自分が嫌で、なんとかお姉ちゃんから独り立ちをしようとするが……やっぱお姉ちゃんを頼ってしまう。
お姉ちゃんは大好き。うん。本当に大好きなのだ。
しかし私は今世でお姉ちゃんに会いたくない。何故なら前世が血の繋がりのある姉妹だとしても、今世は赤の他人。血の繋がりどころか縁すらない。
それに会ったとしてもどう対応すればいいのかわからない。きっと私は脱兎のごとく逃げ出すだろう。
そう思う度に、やはり会いたいと思う自分がいた。会って話がしたい。また前世みたいに仲良くなりたい。
けど。……彼女に会う資格なんてあるのだろうかと、何度思ったことか。何度あの道を通らなければと考えたことか。
「お、ねえ……ちゃん?」
そんなことを毎日考えた。会った時のことを想像した。けどこんな日が来るなんて……
彼女は言った。私と同じ名を持つ妹がいたと。 まさか。という言葉が頭を埋め尽くし声が震える。いや声だけじゃない。掴まれている手が、立っている足が震えた。視界が滲み始め、涙が溢れる。
「氷室凪咲…ですか?」
確かめるように尋ねる。会長さんはくしゃりと泣きそうに顔を歪めタマと呼んだ。
タマ。それはお姉ちゃんがつけてくれた愛称。私の名前が珠代だからタマ。たったひとつのあだ名だ。
「〜〜〜っ」
私は思いっきり会長さん…いやお姉ちゃんに抱きついた。いきなりのことで倒れちゃうかなと思っていたが抱きとめてくれる。それなりに鍛えてるみたいだ。
容姿が違う。名前が違う。匂いが違う。けれど彼女の雰囲気と温かな温もり、そして私の名を呼ぶ声が前世と同じお姉ちゃんで。涙が更に溢れた。
「お姉ちゃん、お姉ちゃん……っ!!」
お姉ちゃんは泣きじゃくる私の頭を何度も撫でる。宥めるように。大丈夫、私はここにいるよと暗に言っているような気がした。
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