標的24 ページ26
今日は球技大会があるらしい。……が正直に言って興味がない。
球技大会の参加、観戦は強制じゃないので、私は図書室で本を読んでいた。もちろん、私の大好きな作者の小説だ。
セツちゃんは球技大会の参加選手。そのため、この場にはいない。
わーわー、という賑やかな声が体育館の方から聞こえてくる。盛り上がってるなあ、と少し目を細めてしまった。
ツナもどうやらその球技大会とやらに参加するようなので、後で感想を聞いてみようと思う。
最悪だった、生き恥を晒したと答える可能性大だがまあ、彼なりに頑張ってほしいものだ。頑張ってください、ツナ。
……と。今はそれよりも。
パタン、と本を閉じる席を立ち、窓際の席へと寄る。前世、ここでよく放課後にお姉ちゃんを待っていたものだ。……怖い人達に呼び出しさえなければ。
たまに眠っちゃって起こされてたっけ。
懐かしい。とても懐かしい前世の記憶。
目を閉じ歌を口ずさむ。もちろん小声でだ。大声で歌うほど、私は勇気がない。でも無人の図書室にはそれなりに響くようで、少し恥ずかしくなった。
今歌っている曲はお姉ちゃんが一番大好きだった歌。お姉ちゃんに勧められて聞いてみたらとても印象に残るほどの名曲だったのでよくお姉ちゃんと歌った。
窓は換気のため、開いている。ふわりと入ってきた風が頬を撫で、アイボリー色のマフラーを靡かせた。
ああ、それにしても眠い。ちょっとぐらいなら寝てもいい気がする。どうせみんなは球技大会に夢中だ。
ピタッ、と歌うのをやめ寝る態勢をとる。あふっと口からあくびが漏れた。球技大会が終わったらセツちゃんが迎えにきてくれる。
多分その頃には放課後になっているだろうから、近くに出来た美味しいクレープ屋さんによって……
それから…それから……
視界がだんだんと暗くなっていき、意識が遠ざかる。あと少しで夢の世界へ行くってところで、図書室の扉が突如大きな音を立て開いた。
ビクゥと飛び起きる私は後ろを振り返る。そこにいたのは会長さんだった。
いつも飄々とした態度だった彼女にしては珍しくどこか焦っているように見える。
「か、かいち……」
「今、歌が聞こえたんだけど……君?」
図書室は完全に閉め切っているから漏れないと思っていたのだが……聞こえていたらしい。サアア、と青ざめる私は慌てて頭を下げた。
「す、すみません!!わ、わた、私です……不快にさせてしまったのなら謝ります。も、もう歌いません!!」
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