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河
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そっとしといた方が良い、
なんて言うてはみたけど。
実際気になるもんは気になるし
だからこいつに連絡したわけやし。
リ「 電話してきたんはそっちのくせに
そっとしといた方が良い、かぁ〜 」
河「 呑もう言ったんはお前やろ 」
リ「 まぁそうなんだけど…
……まだ、気にしてるんすか 」
河「 …… 」
俺ら芸人の中で、Aは特別な存在やった。
漫才劇場の殺伐とした空気の中、
Aだけはいつだって笑顔で仕事をしていた。
そんなAに惹かれる芸人は数しれず
俺も、そのうちのひとりやった。
呑み行ったり出かけたり
個別に仕事の相談をしてみたり
お互いの誕生日には、
ちょっと良いプレゼントを贈りあったり。
どんなことにも、
ころころ変わるその表情が可愛くて。
河「 そら、な。 」
リ「 あれはしゃあなしっす
他の芸人でも、それこそ俺でも
ゆず兄と同じようにしてたと思うし。 」
河「 それでも、あぁなったんは
俺が首突っ込みすぎたからやねん 」
リ「 けどッ 」
河「 …ごめんなリリー、今日はもう
帰ってくれるか? 」
酒で回らん頭を必死に動かして
それでもうまく言葉が出てこなくて
リ「 また、一緒に呑ませてください 」
河「 おん、 」
リ「 遅くに失礼しました 」
河「 …おん、ごめんな 」
外に出るリリーを見送って
残った缶ビールを飲み干す。
思い出さんように、記憶に触れないように
そっと奥に閉まっておいた出来事が
一気に溢れだしてきて。
缶ビールを潰す音も
鼻をすする音も
その記憶も。
刺さるように痛かった。
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作者名:ゆぽる | 作成日時:2022年7月20日 22時