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あれから2週間くらい経った。
体調も回復して、通っている美大へ。
2週間ぶりの大学の通学路には散った桜の絨毯が出来ていて、木には新しい黄緑の葉がちらほらついていた。
この景色を見るのもこの大学に来て2回目だ。
唯一、男の人でお話し出来る幼稚園からの幼なじみの洸希におはよう。
と控えめに挨拶する。
「お、おはよう。身体、大丈夫?」
とわたしの顔を覗き込む。
彼は同じ大学で同い年の2年生。
音楽科に通っており、フルートを学んでいる。
彼が持っているフルートのワインレッドのケースがピカピカと光っている。
「あぁ、うん、ありがとう。もう大丈夫だよ、ごめんね心配かけて。」
「いや、びっくりした〜かあさんに聞いたら病院に運ばれたとか言うからさあ、何があったのかと思って。サキ何も連絡してこないし。」
とおちゃらけて言うけれど、
彼は1番わたしのことを心配してくれる。
いや、心配してくれるのは彼しかいないのだ。
「ごめん…」
わたしがお話し出来るのも気を許すことが出来るのも洸希だけ。
洸希は顔がとっても整っていて性格も優しくておだやか。
おまけにフルートも数々のコンクールで賞を取るほど上手だから、女の子にはモテモテで。
本当はわたしなんかに構わなくても女の子と接する機会は嫌という程あるのに、中学校の時からずっと、一緒に学校に行こうと毎日わたしの家まで迎えきてくれるんだ。
わたしが男の人がこわいと知っているから彼は必要以上にわたしに触れてこない。
「また…倒れちゃったの?」
と彼は歩きながら小さな声でそっと聞いてくる。
静かに頷くと、
「怖かったね、サキ。」
優しい目でわたしを慰めてくれる。
「うん、怖かった…」
「そっか。」
多くは聞こうとしない。
それが彼の優しさだ。
学校に着くとわたしは美術科の南校舎、洸希は音楽科の北校舎だ。
「じゃあね、サキ。今日学校早く終わるから帰り、待ってるよ。終わったら連絡して?」
と手を振って北校舎へ入ってゆく。
「ありがとう洸希」
遠ざかってゆく彼の背中に礼を言うと振り向いてグッドのサイン。
桜の絨毯を踏みしめながら歩く彼の背中はとてもおおきく見えた。
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作者名:すめる | 作成日時:2019年1月18日 23時