ダンスと父の想い ページ44
誰一人、私に近づかない。
少々やりすぎたか。
「ごめん。立香が危険な目にあってるときに席外しちゃって。」
謝りながらやってくる父。
そういえば…父のくせに、すぐ私のところに来なかったな
やはり席を外していたのか。
父がいない時を狙って盛ろうとしたのか。
「後で片付けておくから、安心して。」
私に耳打ちをした。背筋がゾッとする。
言葉の重さが全然違う。
「さ。踊って帰るといいよ。」
「……踊らないとだめ？」
「大丈夫。足踏んでも構わないから。」
私は仕方なく、父の手を取る。
なんの曲か分からない曲が流れる。
「ちゃんと踊らるじゃないか！ネロに厳しく指導されたんだね。」
「ま、まぁね…」
昨日、先生とも練習したんですなんて言えねぇー……
時間がゆっくりと流れていく。
「最近、彼とはどうなの？」
「え？彼？」
「立香の好きな人だよ。」
つまり、先生とどんな感じなのかを聞いている？！
私から冷や汗がダラダラと垂れる。
「話してどうなるのよ…。お父さんは彼と付き合うの認めないんでしょ。そんなに嫌いなの？」
「嫌いではないよ。大切な教え子だからね。認めてないわけでもない。」
え？
父は複雑そうな顔をしていた。
「確かに、娘を誰かに渡したくないって思いもある。けど、彼が立香を失った時。本当に壊れてしまいそうで。もう彼には、大事なものを失ってほしくないんだよ。」
父は知っているのだ。
先生がまだ話してくれない大事な人を。
けど父は間違っている。
「あの人はそんな弱い人間じゃないよ。」
「…！」
「それに、私もそんな簡単に居なくならないさ！」
私はニコッと笑った。
「フッ…一回死んだくせに。」
「あ、あれは！」
図星で言い返せない…
しかし、反省した。私は自己犠牲をもう二度としない。
大事な人達を悲しませたくないから。
「立香の気持ちは分かった。けど、嫁入りは出来ないからね？立香は一人っ子なんだから。」
「あ。」
「ちゃんと話し合いなさい。」
え、ということは。
音楽が終わる。踊りが止まる。
「彼との交際を許すよ。」
なんとも言えない笑み。
寂しさと、嬉しさを混ぜたような。
私が言うことはこれだけだ。
「ありがとう。お父さん…！」
貴方が父で良かった。
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作者名：マリア | 作成日時：2022年7月22日 22時
