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「前に、まだAがグループにいたとき音楽番組でカバーステージしてたでしょ？ボーカルの曲で。僕、あれ大好きなんだよね」
「……それ、私が散々叩かれたやつだよ、正気？」
スンミニはスキズが誇るボーカルなのに、誰よりも歌が好きで上手いのに、まさかそんな人に大好きと言われるなんて思いもしなかった。
当時メインボーカルのナユンオンニが体調不良で代わりに出ることになったのが私だった。リードボーカルのオンニ立ちを差し置いてメインダンサーの上手くもない私が出たから「どうしてAなんだ」と言われるばかりで、バラード調のその曲は確かに本当に歌うのが難しかった。
私はダンス入所だし、その次にラップだったからボーカルなんて全然だったけど、あの時の私は一生懸命やっていたし、がむしゃらに頑張っていた。今はもう見返したくもない動画だけれど。
「Aの声ってなんて言うか……柔らかくて、優しくて、聞いてて暖かくなるよ」
「そんなこと言うの、スンミニだけだよ」
「いい声なのに、どうしてそんなに批判するんだろうってまだ練習生だったけど思ってた。それに、僕と同じこと言ってる人も結構いたんだよ、知ってた？」
それは、やっぱり恋は盲目というように好きな人、応援している人の全てを肯定したくなる、みたいなそんなものだと思う。表に立ってる時は堂々としていなさい、と会社から言われていたから情けない姿ではなかったと思うけどあれを好きという人はかなり物好きのような気がする。
「……今更、じゃない？」
「Aはさ、Aに憧れてアイドルになった子たちとか知らないでしょ。Aは色んな人たちに夢を与えてたんだよ。Aが少女時代のテヨン先輩みたいになりたいって思うように、色んな人たちがAみたいになりたいって思ってこの世界に飛び込んだりしてるんだよ」
「……そう、なのかな」
「Aは、自分が思ってるよりもうんと凄い人だよ」
確かに、思い返してみれば挨拶をしにきてくれた子が「A先輩のファンです」と言ってくれたことがあったし、男の人はともかく、女の子も「A先輩がロールモデルです」と教えてくれた子もいたのを思い出した。
「……もう一回、聞くんだけど」
「うん」
「スンミニは、私がまたアイドルになったら、嬉しい？」
「そんなの、もちろん嬉しいに決まってるじゃん」
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作者名：さとう | 作成日時：2024年2月23日 21時
