その女、私です。【灰谷竜胆】 (ページ1)

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you side

いつものようレジの前で時間が過ぎて行くのを待つ。そう人通りの多くないこの場所に来る客も少ない。

来店する客数とは裏腹に店内に置かれているCDの数は中々多い。

あまり広くはない店内に置かれた棚にこれでもかと詰め込まれた無数のCD。

店内で流れるのは私の好きなロックバンドの曲。有名ではあるが古くてあまり今時の若人は聞かない。

だけど、私はそのバンドが好きだ。そのバンドが作った曲を店内で流せるのがアルバイトである私の特権。

自動ドアの外を忙しなく行き交う人の波を見ながら確かに感じる人の視線を認識する。

(あの人、またいる…)

店内に置いてあるCDプレイヤーを聞きながら確かに私の方をじっと見ている人がいる。

最初は私の勘違いだと思っていたのだが流石にそれが2週間も毎日続くとなると勘違いとは思えない。

何をしてくるわけでもなくただ、私の方を見ている。なんの害もないし心配事はない。

そう、言いたいのだが残念なことにそれは言えない。なぜなら、その見てくる人は私のクラスメイトだから。

しかもそれは私の苦手で関わりたくない灰谷竜胆だからなのだ。

やけに目立つ金髪に可愛らしい丸眼鏡。そのレンズ越しに覗くタレ目の朧気な瞳。

誰が見てもひと目でわかる。灰谷竜胆だと。幸い向こうは私が誰だか分かってはいない。それだけが救いだ。

うちの高校はバイトはしていいのだが私自身周りにバレたくなくて軽い変装をしている。

巻かれたロングのウィッグを被り、気のキツそうな濃いメイク。

普段はしていないピアスをジャラジャラと、着けて店内に出ている。

だから、普段学校にいる私とは全くの別人に写っているはず。

「っ、いてっ」

プレイヤーに接続されたヘッドフォンに髪が絡まったのか声を上げた。

「…取れました、かね？」

「う、す」

「触っちゃってごめんなさい」

赤くなった顔に気だるげそうな目元が見開く。

私は一体何をやってるんだ。自ら関わりに行くなんて馬鹿だ。

でも、あの人が聞いてたヘッドフォンから聞こえたあの曲私が好きなバンドの曲だった。

初めてあのバンドの曲を聴いてる人を見た。それはなんだか嬉しかった。

それが私の苦手なあの人(灰谷竜胆)だったとしても。