行きましょう ページ41
黒髪をぴったりとオールバックにして、セドリックは…今は吸血鬼のエルネストだけれど…シャツとスラックス、そして胸元には意味ありげな銀製のバッチをつけて私の後ろに立っていた。バッチ自体に意味はないのだけれど、つけている事実にあるのだ。なんかこう…執事っぽいでしょう？
意外と顔はいじらなくても髪色だけで変わるものである。
ドラコなら気付くかもしれないけれど、でも魔力の性質は完全に吸血鬼のそれであるし、あの人も、あの場にいた死喰い人も気付くことはないだろう。興味なんてないだろうし。
『いいですか、エルネスト』
彼は頷いた。
『最初のうちは血の匂いで落ち着かないと思います。
ですのでこのタブレットを持っていなさい、味は良くないですけど…ないよりはマシなはずです。』
ジャラジャラと音を立てるタバコの箱ほどの缶を彼に手渡す。
人間の新生児はお腹が空いたら泣いてそれを知らせる。
それと同じように新しく生まれた吸血鬼というのは空腹感を感じれば我慢の制御ができなくなって本能のまま襲ってしまうことがあるのだ。
本来なら少しずつ、血の匂いがしない環境で人に慣らしていくのがいいのだけれど、そう悠長なことを言っている場合ではない。
「僕が、もし、誰かを噛んでしまったら…」
影響が出るのかと聞きたいのだろう。
『いえ、貴方は吸血鬼といえども、私から力を借りているようなものですから吸血鬼性を与えたりするような特別な力はありませんよ。
一般人に噛み付くのは良いことではありませんけど、死喰い人なら一人や二人噛んだところで…』
そう言えばセドリックは慌てて首をふった。
誰であっても噛み付きたくはないようだ。そりゃついこの間まで人間だったのだからそうだろうけれど。
『下っ端は血の気が多いのがいますから、静かに端っこで本でも読むか、少しマシそうなのと話していないさい。それに何かあったら私の名前を出して構いませんからね。』
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作者名：あやにゃん | 作成日時：2020年5月5日 2時
