洋館 ページ37
蜘蛛の巣がたくさん張っている大きな洋館。
それは、いつ建てられたものか、マグルの間では議論が起こりそうな建造物だった。
庭には古代ローマや古代ギリシャ時代のような柱のドームがあり、大きな土地の真ん中に聳え立つはスコットランド風の古城、裏の池の奥には日本風の東屋、近くの池にかかる橋は古代トルコだったであろうか。
その時代、その建築の仕方で作られてはいるものの、問題は明らかにマグルが知るそれらより高い強度を誇り、大きいことだった。
「ここが…Aが昔住んでいた？」
『はい。
吸血鬼、と言うのは昔お話ししたと思うのですけれど、日本人だということは言っていませんでしたよね？』
延々と続くその土地を見渡すセドリックに私はそう言った。
彼にも吸血鬼だということは色々とバレてしまった時に伝えたはずだけれど、隠しているわけではないといえ日本人であることまでは言っていないはずだ。
「そうだね。
アジア系の血が入っているだろうとは思っていたけど。」
あの時代には珍しく元々あまり純日本人のような顔立ちではなかったし、噂程度ではあるけれど、私の家系にはロシア人の血が入っているとかいないだとか。
まぁ、あの頃は隠そうと思えば隠せたし、噂が本当になるような時代なのでそこら辺の真偽は確かではない。
『お父様…つまり私を日本からスコットランドへ連れてきてくださった方と最初の数年間ここに住んでいたのです。
英語やフランス語を学び、礼儀作法からテーブルマナー、仕事の仕方やら…たくさん仕込まれたものです。』
「ならここは、Aにとって大切な場所なんだね。」
大切な場所。
私が生き返って、退屈から逃れて、娘や道具としてではなく…人間として見られた場所。
それと同時に救ってくれたお父様が亡くなった場所で、私がお父様を殺してしまったような場所で…
『えぇ…大切だからこそ、ここには帰って来れなかったのかもしれません。』
たくさんの思い出があるから、ここには来れなかった。
どうしようもせざるを得ない今のような状況にならない限り、来ようとは思わなかったのかもしれない。
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作者名：あやにゃん | 作成日時：2020年5月5日 2時
