目覚め ページ33
ーA視点ー
ボロボロの小屋に息も絶え絶えになりながら姿現しをする。
あそこなら私ができるだけの防犯対策をしてあるし、食料もため込んである。
家の中にぱっと現れて、右手に持っていたトランクが大きな音を立てて地面に転がる。
口の周りに、両手にべったりとついたレギュラスの血をいち早く消してしまうために震える手で魔法を使おうとするも発動しない。
もどかしい。
そして明らかに楽になった体が憎らしい。
悪阻なんてそんなものがなかったと言わんばかりに体のダルさと気持ち悪さは軽減されている。
「…A？」
誰もいないはずのリビングから私を呼ぶ声が聞こえてきた。
ここには招き入れない限り入れない仕掛けになっている。それにここにいるのは…仮死状態にしているセドリック…
ぱっと上を向けば、あの頃と同じような優しい笑みを浮かべた彼が経っていた。
柔らかそうな茶髪に白い肌は相変わらずで、エイモスと奥さんの面影があるその顔。
『セドリック』
血塗れになっている私を見て彼は一瞬顔をしかめた。
私に人差し指を向けて"スコージファイ"を唱えた。杖なしではやはり威力が劣るのか、汚れが完全に消えることはなかったけれど、気休め程度にはきれいになった。
「話を聞く前に着替えよう。」
ね、と彼は私のトランクを持ってお風呂場へと私を導く。
この小屋にお風呂場なんて立派なものがあっただろうかと思いながらついていく。
ーーーーーー
トランクの中から適当なワンピースを選んでまとって、そのままリビングの方へ向かう。
しゅんしゅんと音を立てるやかんはコンロにかけられていて湯気が出ている。
「おかえり、A。
ホットミルクと紅茶どっちがいいかな」
マグカップとティーカップを用意した彼は安心させるような笑顔で私に問うた。
この人はどうしてこの生活に一見順応しているように見えるのだろうか。
普通目が覚めてキッチンの床の下の棺桶の中だったら警戒しないか？
ホットミルク…お願いしますと言えば、彼は手際良く小鍋の中のそれをマグカップに注ぎ入れた。
「どうぞ。
何かクッキーでもあればよかったんだけど…」
私は首をふった。
どちらにしろ今私は食欲があまりない。
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作者名：あやにゃん | 作成日時：2020年5月5日 2時
