叫び ページ3
『さあ、貴方はとりあえず着替えましょうか。』
どこかでできた傷から流れる血が彼のシャツを赤く染めていた。
…どうしてかその匂いには嫌悪感を抱かない。
血液の匂いや味の変化は性愛がキーだと思ったのだけれど…そういうわけではないようだ。
事実、ドラコにそういう愛を抱いたことは一度たりとない。あるとすれば家族愛だとか、親が子に向けるような感情だ。
腕にできた切り傷を舐める。
少し鉄の味がする…多分極めて人間の味覚に近い…
美味しくはないけれど、別にさほどまずいわけでもない。
傷はすぐに塞がり、元の青白い肌に戻った。
「僕は…あんな事、あんな事…望んでなかったんだ。」
心の叫びを彼は吐き出した。
学校でレギュラスが着ていた私服に着替えさせて、暖かい紅茶を与えたら彼は静かに頬に涙を伝わせた。
しゃくり上げることもせずに、嗚咽も漏らさず。
ただただ静かに頬が、服が濡れていく。
『でも貴方のおかげで守れた人もいるでしょう？
貴方の家族、そして友人も計画のことは一切知らなかったわけですから。ね。』
そういえどもドラコはそうじゃないと首を振る。
悪夢を見てうなされた子供のように、嫌だ嫌だと同じことを繰り返す。
『貴方は悪くない。悪いのは全部あの人です。
だから大丈夫。大丈夫。』
暗示をかけるように、私の胸元に抱きついてきたドラコの背中を撫でながら、大丈夫だと言い聞かせる。
子供のように泣いていたのに、途中でぷつりと声を上げなくなった。
疲れ果てて寝落ちた…というより気絶したに近いのだろうか。目を真っ赤に腫らして、顔はびしょびしょだ。
今年度が始まった時よりもやつれた彼の顔色は死人のよう。
ドアからチラリと顔を覗かせたレギュラスは心配をするように声をかけてきた。
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作者名：あやにゃん | 作成日時：2020年5月5日 2時
