書類 ページ41
キャロルには先にリビングにお茶と少し食べるものを用意するように言い、私は隣にある図書館兼書斎へと向かう。
重厚なマホガニー製の机を撫でて、上の方にある大きな窓ガラスから降り注ぐ太陽の光を浴びる。
今日もまたいい天気だ。柔らかな日差しが気持ちいい…なんて吸血鬼らしからぬことを思う。
屋敷のガラスというガラスに色々と仕掛けが施してあるので大丈夫なわけですけれど。
本と革が混じった図書館の匂いを吸い込んで目当ての書類の場所を思い出す。
あちらこちらに"アクシオ"を唱えて揃える。
お父様から譲り受けた不動産、お金、会社…
今のお金の状況と、株…保険と何があるかな…
机の上を関係書類で盛っていれば、ノックが聞こえる。
はーい、と返事をすればドアはゆっくりと開き、薬の効果を消したレギュラスが入ってきた。何やら両手に紙をいっぱい抱えているところを見ると、私が何をしようとしているのかを察したのだろう。
特に表情を変えないまま彼は持っていた紙束を近くの本棚の空きスペースにおいて、私が持っていた紙束を持ってくれた。
さすがは成人男性といったところか、かなりの量をヒョイと持ち上げてしまう。
一番上の紙に目を通したのちに彼は唐突にこう言った。
「A、結婚しましょうか。」
くるりと彼の方に向き直り、学校で見るときよりも幾分か高い場所にある彼の整った顔を見上げる。
レギュラスは何を突然言い出したのだろうかとぼーっとしていれば、彼はしれっと続ける。
「だって、その方がどちらかが先に死んだ場合に保険とか、お金とかで楽でしょう？
もちろんまだ"学生の身"なので式はあげませんけど、書類上はと思いまして。」
ちょうど一年くらい前にグリモールドプレイスのブラック家のタウンハウスで彼にブラック家に伝わる指輪をもらったことを思い出すと共に、右手の薬指にあるそれが存在を主張するように少し重くなった気がした。
『ぜーんぶ落ち着いたら豪華な式をあげましょう。
親しい人たちみんな呼んで、スコットランドかどこかの別荘のお庭でみんなで着飾って。』
右手に紙を持つ彼を左側から腕を回してきつく抱きしめた。
何処かへ消えて行ってしまいそうな雰囲気の彼を、約束と抱擁で現世に留めておくように、愛を込めて。
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作者名：あやにゃん | 作成日時：2019年9月2日 3時
