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書斎に入るなり、にこにこ父親が手招きする。
黒檀の執務机の前にある応接ソファに、アイリーンは腰を下ろして、父親が向かいに座るのを待った。
「夜会での出来事先刻聞いたよ。セドリック様の件は残念だったね」
「申し訳ございません、お父様」
セドリックとの婚約は政略結婚___
政治的駆け引きに関わることだった。
ドートリシュ公爵家をより盤石にするための大事な一手だったはずだ。
しかも婚約破棄に関する醜聞は、宰相である父親の周囲にも影響が出ているだろう。
____この父親に影響があるかどうかはさておき。
「仕方がないよね。お前は明らかにセドリック様の好みからはずれていっていたから」
悲しそうに告げられて、アイリーンは真顔になる。
そしてもう一度謝った。
「..,,本当に申し訳御座いませんでした」
「それでも、ドートリシュの名前があればもつかもと思っていたんだけれどもね。
いやはや若者の愛は強い。お前も『セドリック様が分かってくれるからいいの』が口癖で」
「本当に本当に申し訳御座いませんでした」
「さすがに落ち込んでいるのかと思っていたんだけどね。引きこもっていると聞いたし」
ふう、と父親はそこでため息を吐いた。
「なのに思ったよりお前が元気で、お父様はがっかりだ....」
心底残念そうに言われて、アイリーンは頬を引きつらせた。
「(相変わらずのドS! 娘が婚約破棄されたっていうのに!)」
ルドルフ・ローレン・ドートリシュ、
エルメイア皇国一の切れ者宰相として有名な人物だ。
しかし優しい父親は他人の不幸を見るのが大好きという、非常に厄介な性癖の持ち主である。
それは家族でも例外ではない。
むしろ家族の方が、愛をもって隠さない分、ひどい。
分からない問題があると言えば喜んで横で観察され、
何かに負けて悔しがっていれば楽しげに敗因を分析される。
おかげでアイリーンは並大抵の中傷と挫折に膝を突かないたくましさを手に入れたが、
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