第五訓 ページ6
ガヤガヤと騒がしい食堂内に入ると途端にしんと静まり返った
視線がAへと向けられ騒がしかった声はひそひそとしたものに変わる
途切れ途切れに聞こえてくる単語はAに対してのぼやきばかり
特に気にせず突っ切り、食事を配分している厨房の方へと向かった
「はいよ、お嬢さんの分」
お盆に乗せられたのはご飯とみそ汁、添える程度の漬物
一汁一菜。よくある庶民的なものだ
配膳係をしている人にお礼を言い、Aは誰も座っていない隅の方に腰かけた
Aの話題に飽きたのか、先程までの嫌な感じはもうしない
食堂はまた賑やかになっていた
Aは箸を口に運びながら辺りを見回した
皆それぞれの流派ごとに固まってテーブルを囲っているようだ
ガタイの良い男たちがこの量では足りないのだろう
幸い白飯は大量にあるようで、男たちは次々おかわりをしている
まだ浪士組は本結成にすら至ってないため当たり前だが収入はゼロ
幕府から与えられた資金は組全体のためにしか使用してはならない(破ったら切腹)
使用用途も毎日やってくる松平の側近である佐々木に申請しなければならない
人数の割りに多いとはいえないお金は節約する必要があるため質素な生活を送らざるを得ないのだ
皆の夕飯タイムが終わりかけてきた頃
「おう、皆聞いてくれ」
先程の半裸(だった)男が食堂の賑やかさに負けない大声をあげ、皆の注目を浴びた
「これから飯は当番制で回して作っていこうと思う、自分たちの飯だしな!そこでだ、同じ釜の飯を食う仲間同士、流派だなんだ関係なく全員くじ引きで当番班を決めるってのはどうだ?」
確かにその考えは一理ある
しかし、そこで大人しく賛成する連中ではなかった
_あ?何勝手に仕切ってくれてんだ。俺たちの方が上なんだからてめえら下のもんが作ればいいだろうが
_はァ?誰が下のもんだって?どう考えてもうちの方が上だろうが
うちだ、いやうちの方が…
まとまる気は一切ない様子
ここが食堂だということも忘れ今にも暴れ出しそうな男たち
これには提案者も呆れた表情を隠せていない
無理もない、協調性のないこの連中に言う事きかすなんて難しい話だ
しかしご飯は朝昼夕と必要なのも事実
結局はそれぞれの派閥で分担して作っていく、ということでこの話は落ち着いた
…のだが
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作者名:あまね | 作成日時:2019年2月4日 23時