第一訓 ページ2
どこからか蝉の鳴き声が聞こえてくる
夏の熱気に負けないくらい熱い血をたぎらせた男たちが、続々と一つの門をくぐっていた
″浪士組志願者会所″
看板が掲げられた門を前に、Aはひとつ深呼吸をする
攘夷戦争が終結し、天人に敗北した侍たちは
もて余した力のぶつけ先を攘夷だ報国だと理由づけ暴れまわっていた
そんな中幕府は、彼らを取り締まる対組織、特別治安維持部隊浪士組を結成すべく浪士たちを募った
新時代に見放され滅びゆく運命にある彼らを、"侍"にするために…
中の様子を窺うと、集まった浪士たちはひとりの男の話に耳を傾けているようだった
「そなたの様な
いつの間にいたのだろう
修行僧恰好の長髪の男が脇に腰かけている
『何用もなにも、ここに来た理由なんてひとつさ
…侍になるためだ』
三度笠を深くかぶりなおし、少女——Aは門をくぐった
他には一瞥もくれず、浪士たちの前に立つ役人の元へと足を進める少女に周囲は奇異の目を向ける
_おいおい、何だあのガキは
_あのチビ女じゃねェか?
_へっ、子猫ちゃんが迷い込んでるぞォ
ひそひそとは言えない大きさの声で下品に笑う男たち
眉間に皺が寄るのが分かるがここは我慢だ
目標の男の元へと着くと向こうもこちらへ気づいたようで視線をよこした
「お、Aちゃーん。遅かったじゃねェか」
『遅れてすみません松平公』
軽く挨拶を交わし、その隣へと並ぶ
「おいおっさん、そのガキは何だ」
その様子を見た浪士たちの一人が怪訝な顔で尋ねた
それに答えるべく口を開きかけた松平公を手で制し、Aは一歩前へ出た
『私の名は柊A、あんたたちと同じ浪士組志願者だ』
ブッ、ギャハハハハハッ
一拍おいて馬鹿笑いが広場中に響いた
やはりと言うか何と言うか…予想通りの反応すぎて溜息を吐く
_嬢ちゃん本気か?そんなちっせェ身体で何ができるってんだ
_おうおう、そんなに眉吊り上げちゃって怖い怖い
_女子供はさっさとお家に帰りな
矢継ぎ早にAを馬鹿にする声が上がる
『女子供だからって舐めないでもらえる?…クソ流派だかゴミ流派だか知らないが、あんたらこそ女みたいにぞろぞろぞろぞろ…ま、弱い奴らが集まったところで高が知れてるけど』
Aのその言葉で浪士たちの雰囲気が変わった
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作者名:あまね | 作成日時:2019年2月4日 23時