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翌日の日曜日。
チャリティーコンサートの本番当日だった。観客の入りも上々で、毛利さんや毛利先輩を始め、阿笠さんや子供達の保護者らが揃って来てくれていた。順調に曲目が進む最中、ステージの上で礼をする。本日二度目のソロ曲だった。バイオリンを構えながら、私のソロの次にくるであろう出番をステージ袖で待機している歩美ちゃん達をちらりと見る。ステージ用にオシャレをしている恰好と雰囲気−−−そしてどこか落ち着きがない彼女らの様子に、微笑ましくなった。
アヴェ・マリア 。
アヴェマリアとは「めでたし、聖寵にみてるマリア」という意味で、カトリック教会の祈祷文の一節である。この曲はフランスの作曲家シャルル・グノーがバッハの平均律クラヴィーア曲集第一集第一曲ハ長調の前奏曲の旋律をそのまま、ピアノの伴奏部に使用しているのが特色といえる。
『−−−っ、』
曲が終盤に差し掛かった時だった。頭上でギギギギという妙な音が聴こえる。突如として湧き上がる観客の不審そうな声に驚き手を止めようとしたが、僅かなプライドが辛うじてそれを防いだ。一度想いを篭めて弾き始めた曲は、最後まで弾き通したい。手首と腕を使ってピッチビブラートをかけた、その時だった。
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