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「内服した場合は、吐き出させるのと胃洗浄が基本だけど、」
「ーーーしかし、それは意識が、ある場合。既に意識のない、彼には、不向きだ。」
槍田さんの言葉に被せるように、心臓マッサージ中の白馬さんが答えた。
「病院では、チオ硫酸ナトリウム水溶液や亜硝酸化合物を使うってーーー新一兄ちゃんに聞いたことあるよ。」
コナン君だった。
亜硝酸と聞いて思い浮かべたのは、晩餐会の前に調べた内容だ。慌てて、マッサージを続ける白馬さんに断りを入れてから、大上さんのジャケットのポケットを探った。
『あった。』
あの、亜硝酸アミルだ。
『亜硝酸アミルも亜硝酸化合物、ですよね?』
白馬さんはフッと小さく笑う。彼の額には大粒の汗が滲んでいた。
「ーーー亜硝酸アミル。狭心症治療薬でありながら、シアン化中毒の解毒剤としても使用される薬品。どうやら、大上さんは幸運の女神に愛されているようだ。」
私は白馬さんの指示通りに、マスクを通して大上さんに亜硝酸アミルを嗅がせ、その後に空気を送り込むと言った動作を、コナン君に時間を測ってもらいながらひたすら繰り返した。
『………っ!』
大上さんの脈拍が触れた。
そのため、今ここで出来る対応としては人工呼吸のみである。一刻も早く彼を病院に運ぶ必要があることから、本当に車が破壊されてしまったのかどうか車の所有者達はその確認をしてくると言って出て行ってしまった。
「ーーーお嬢ちゃんは随分と用意が良いね。」
大上さんの様子を確認しながらバックを押していると、千間さんに話しかけられた。
「ーーー彼は助かりそうなのかい?」
『医者じゃないので何とも。私達に出来ることはここまでが限界ですし、早く病院で治療してもらわないと。先程使った薬の副作用がいつでてもおかしくはないと思いますし、一命はとりとめても、シアン中毒の後遺症が残ってしまう可能性だってあります。』
「緑川さん、詳しいのね。」
そう言って毛利先輩は驚いていた。
『一応、目指したい職業なので。でも白馬さんやコナン君達の知識には負けますよ。』
毛利先輩にも思い当たるところがあるのだろうか苦笑している。一つしか違わない白馬さん、まだ小学生のコナン君にも及ばない自身の知識の無さをこうも突きつけられてしまえば、表に出せない悔しさが密かに燻っていた。
「ーーー他人と比べる必要なんてないさ。ただね、お嬢ちゃん。こんな話を知ってるかい?」
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