手負いの二人 ページ4
秀一さんに取ってもらったホテルの部屋に荷物を置くと、クレジットカードと部屋の鍵を持って出かけることにした。秀一さんとの約束の時間まではまだ大分あるし、下着や衣類、化粧品等の必要な物を買い揃えるためだ。ついでに夕食もとっておこう。
『ーーーと、大体こんなものかな、』
購入したものを一つの袋にまとめて左肩に下げれば、すっかりと暗くなってしまったホテルまでの道を歩く。店を出る際に時計を確認したら約束の一時間前だったことから、部屋に戻ってシャワーを浴びてからでも充分間に合う時間帯だった。
『ーーー怒られるかな』
秀一さんに会えるのは嬉しいのだけれど、事情聴取の際の視線を思い出せば微妙なところである。勿論、怒られるだけのことをした自覚はあるのだから甘んじて受けるつもりではあった。それにしても。
『ーーー表通りから帰った方が良かったかも。』
近くにできたショッピングモールの影響か、元々は商店街だったこの辺りのひと通りはとても少ない。それに比例するように街灯の光も数えるほどしか見当たらなかったけれど、今夜は満月のためか裏路地でも明るく感じられた。
基本的に叔母や文和さんと共ににいなければ、緑川Aと気づかれにくい。けれど、買い物中に直接話しかけられることはなかったものの、好奇の視線に晒されることがあった。もしかしたら既に日中のバスジャックのニュースが流されていて、私のことも報道されてしまったのかもしれない。そういった野次馬やマスコミから避けるために選んだ道だったのだけれど、少し不用心だっただろうか。
静かに、風が吹く。
不自然な空気の揺らめきに後ろを振り返れば、白い衣装に身を包んだ男の人が降りてきた。
「ーーーっ!」
『ーーー貴方は、誰?』
シルクハットを被り、右眼にかけたモノクルが月光を反射してしまい顔の判別がしづらい。
−−−こっちだ!奴は左肩を怪我している。血痕を追うぞ!!
遠くで、男の人達の怒鳴り声が聞こえたため、彼の左肩を見やればーーー成る程確かにその上質な白いスーツを染め上げていた。
『追われているのは貴方?』
「そのようですね。貴女は私を彼らに突き出しますか?」
『ーーー隠れて、』
「ーーーは?」
『良いから、隠れて。』
「ーーー見知らぬ私を助けてくれるのですか?」
『早く。』
彼は私の言葉に幾分迷ったようだけれど、結局は従うことにしたのだろう。マントを翻して物陰にうまく紛れ込んでくれた。
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