緑灰に散る【転移前】 ページ2
桜の花びらが舞う四月。風は春の香りを沢山運んできている。
私は真新しい制服を着こなし鞄を持つと、目的地へと急いだ。向かった先は"緑川病院"。名前の通り、私の父さんが医院長を勤める病院でもある。うちは代々医者の家系で、他にも二つの系列病院も持っていたりする。病院の自動ドアを通ると、クラークさん達が会釈をしてくれた。
『……あ…』
病院独特の匂いが春の香りを霞めてしまい思わず眉間に皺を寄せた。この匂いにはなかなか慣れないな、と一人愚痴る。
「あれ?Aちゃん、今日もお母さんの見舞いかい?それとも緑川先生に会いに?」
低く落ち着いた声に私は振り向く。そこには、去年から緑川病院に医局人事で異動してきた降谷零さんがいた。
『今日、高校の入学式があったんです。だから、母さんに制服を見せたくて!』
「そっかー、今日が入学式か。懐かしいなぁ。実はAちゃんの高校って俺の母校でもあるんだよ。」
知ってる。だからこそ、その高校に合格するために頑張って勉強したのだから…と内心で呟くも、そうなんだーと惚けてみせた。零さんはそんな私を見ながら何かを悟ってしまったのだろうか、ニコリと微笑むと膝を折って視線を合わせてくれる。それから、ポンポンと優しく頭を撫でられた。
「そのセーラー服、似合ってるよ。―――――可愛い。」
その瞬間、ボンッと音がでるくらいに私の頬は熱くなる。きっと可哀相なほど真っ赤になっていることだろう。恥ずかしいのと赤い顔を見られたくないのと…とにかくいろいろな気持ちがごちゃまぜになり、咄嗟の予防策として下をむくと、上から声を押し殺したような笑い声がした。
……からかわれた。そう理解した私は、真っ赤な顔をそのままに零さんを睨みつける。
『零さんのイジワルッ!』
彼はいつもそうだ。私をいつもいつも子供扱いするし、からかうし……でも、格好良くて、看護師や女医からも人気で、医師としても期待のホープなんて言われてて、笑顔がとても素敵で―――
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