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―――…
ジメジメとした湿気の中、雨と土の香りが入り混じる六月。母さんは高熱を出したらしく具合は良くない。それなのに、父さんは相変わらずだった。そんな日々の続いた、金曜日。この日は容赦なく朝から雨が降り注いでいた。
少しずつ慣れた学校のお昼休み、私は先生から呼び出されて…その聴かされた内容にそのまま傘もささずに学校を飛び出した。
走って走って走って…
息が乱れるのも転びそうになるのも、靴下やローファーに泥が跳ねるのも構わずに走り続けた。
『―――母さんッ!』
私は通い続けた個室の扉を開けた。
そこには、必死で母に心臓マッサージをしてくれている医師の姿−−−−零さんの姿があった。彼の額や首元には大粒の汗が走りその周りを湿らせている。
「先生!娘さんがいらっしゃいました!」
「院長は!?」
「連絡は入ってるはずですが、まだ……」
零さんが舌打ちをした。看護師の声が遠くに聞こえる。ふらつく足を叱咤させて、横たわる彼女に恐る恐る近づいた。既に肋骨が折れてる。彼女の身体はボロボロだった。そして察する。
――あぁ、もう、本当にダメなのだろう。
その事実を認めるのが怖かった。それでも。
『先生……もう、やめてあげて。母さんの身体は限界なんでしょ?』
出てきた言葉はそれだった。
『母さんを楽にさせて。私はもう充分。父さんのことも待たなくて良いから。』
私の言葉を聞き、零さんは一度悔しそうな声を上げてからゆっくりと手を止めて身体を離す。
−−モニターは0を指していた。
『ありがとう、私が来るまで処置を続けてくれて。』
「………、ーー時ーー分…ご臨終です。」
私は死後の処置をお願いするとそのまま病室を退室した。呆然としている中で勢いよく足音が聞こえ、暫くして現れたのは―――この病院の院長、父さんだった。
『今更、何しに来たの。』
声が震えた。
「……」
『母さん、ずっと父さんのこと待ってたんだよ?なんで会いに来なかったの?そんなに仕事が大事?母さんよりも、他の患者の方が大事なわけ!?』
私は言い切る前にポロリと落ちてきた涙を、ぐいぐいと袖で拭う。父さんがそれでも無言で母さんに近づこうとしていたため、両手を広げてそれを阻止した。
『母さんに近寄るなっ!!』
父さんは私の言葉にピタリと動きを止めた。
『医者のくせに、どうして母さんを助けてくれなかったの?母さん一人救えなかったくせに、何が医者よ、何が院長よ―――この人殺しっ!大嫌い!』
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