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『ーーーすみません、どうぞ。』
外では他人。秀一さんのお礼を聞きながら、脳内でそう何度も繰り返した。
「新出先生、ジョディ先生も。今日は二人でお出かけなの?」
前席ではそんなコナン君の声が聞こえたが、どうやら彼"も"知り合いを見つけたのだろうか。
『ーーーまさか、行く先まで同じってわけじゃないよね。』
ふと、ゴホゴホと咳が聞こえたため彼を見やれば、彼の視線は私ではなく哀ちゃんに注がれていた。
......他人のフリをしつつ、説明を求められているのだろうか。そんなことを求められても、私だっていまいち把握してないというのに。
『......すみません。席、狭かったですか?この子、人見知りしちゃったのか、ちょっとグズっちゃってて』
ーーー煩くはさせませんから、と言うと彼は首を横に振った。
「−−−人見知りなんて、可愛いじゃないですか。」
私だけに聞こえるように囁かれた。幼い頃、人見知りをしなかったという私への揶揄い、だろうか。少しだけムッとして窓の方を向けば、微かにくつくつと笑う声が聞こえた。
「ーーーおい、見ろよ光彦。あいつらもうスキーウェアー着てるぜ。」
「本当ですね、帽子とゴーグルまで被って....よっぽどスキーが待ちきれないんでしょうか。」
「俺達ももう着替えちまうか?」
「いやですよ元太君。僕達の荷物は全部先に送っちゃったじゃないですか。」
「あ、いけね。そうだった。」
前方から聞こえる元太君と光彦君の会話に耳を傾けながら、哀ちゃんの背中をさする。先程よりは若干ましになったものの、それでも相変わらず震えは続いていた。
それからすぐだった。
「全員大人しくしろ!!」
男の人の怒鳴り声が聞こえ思わず前を向くが、席に阻まれていて前の様子がよく見えない。酔っ払い、だろうか。
"パン"
聞こえた音に肩が跳ねる。続いた乗客の悲鳴にーーー銃声、の二文字を思い浮かべれば.....全身から血の気が引いて、途端に寒気を感じた。
『ーーーっ』
無意識に哀ちゃんを抱きしめる力を強める。瞼に力を入れて閉じれば、そっと右手を握られた。覚えのある、彼の、体温だ。
「No need to worry.」
握られた手はすぐに離されてしまったけれど、耳元で囁かれた言葉に、少しだけ、身体の力が抜けていくのが分かった。
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