インテリゲンチャ現象 ページ34
―――…
賑やかな歌舞伎町に反して、寂れた裏町。ここは表だて廃墟と為しているが実際は、社会から追い出された者…つまり幕府から目をつけられた一部の者の溜り場となっていた。あちらこちらに、まるで血に飢えたような獣を瞳に宿している男共が次の獲物を、と目を光らせている様子はもはや尋常ではない。
シュンシュンシュン…
そんな緊張した雰囲気をぶちこわすように足音が聞こえると、周りの視線が一気にその音源に向けられた。
それが一般人にむけられようものならその人は震えあがって腰を抜かすだろうが、浪々と走る青年は自身にふりそそぐ視線をものともしないのであろうか。
いずれにせよ、音源である男は上質な黒髪を背中まで凪がしているせいか、少女と言っても通じるようなこの場にそぐわぬ可愛らしい容貌の青年であった。
その青年の役割は、いわゆる情報収集。
ここにいる輩は、それをわかっていたため、中には新たな獲物の報せと扮で舌なめずりをしている者すらいる。
その中で、服装は浪人のようにみすぼらしいが、一際鋭い瞳を持ち妖笑を浮かべている髭を生やした男の元に、先程から走ってきた青年が跪いた。
「――例のものを見つけました。…奴は歌舞伎町にいます。」
青年のことばを聞いていた他の男共は一瞬息を呑み、それからすぐにザワザワと騒ぎだした。すぐに青年が周りを睨んだが、それ位で静まる輩ではない。
シュッ
―――ドスッ!!
髭男は目にも止まらぬ早さで小刀を抜くと、騒いでいた男の額に投げ付ける。不運にも当たってしまった男は奇声を発しながら、地面に崩れていった。
「一々騒ぐな。白夜、お前は引き続き情報を集めろ。」
「はい――。」
低いテノールの声が辺り一面に響き渡る。
囁くような声だったが、重々しい威圧感があり仲間が殺されたというのに誰一人として反抗するものはなかった。
倒れた男の額から流れるドロリとした血が、灰色の地面を不気味と鮮やかに染め上げる。
今――密かに戦火の狼煙が上がった。
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