【ヒロアカ】To my dearest. Ⅳ (ページ17)

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技を熟練させるのに要する努力の量が少なければ少ないほど、天才と呼ばれる。世の中は結果論だ、結果は副産物ではない。

彼女は産まれたそのときから努力し続けてきた。体にまつわること一切を徹底管理されて生きてきた。

私はのうのうと生きてきた。誰かが努力してるなんてことも考えたことなかったもの、自分がこうして竹刀握ることになるなんて思ったこともなかったし。

そうして根津校長の合図で私たちの試合は始まった。

勝負は一瞬だった。彼女の一撃を凌いで、私は面をねじこんだ。今まで決めてきたどの一本よりも、鮮やかで美しかったと思う。私はやはり、さみしくなった。

『淼さん、やっぱり私、引退する』

「そう……………はァ～あ！残念やわァ、Aチャンに勝とう思て今まで頑張ってきたのに、せやのに」

うつむいて泣き出してしまう。私は声をかけることができなかった。

「なんでアンタに勝たれへんのか分からん、こんなに頑張ってきた、努力してきた、始めた年も私の方が先やのに、」

『…………』

「アンタが出てくるまでは、私かて天才や持て囃されてた、でも、アンタは圧倒的やった！一番最初に手ェ合わせたとき分かった！！アンタには勝たれへん！！！

それでも少しも傲らへんアンタが嫌いやった、少しも妥協しやんアンタが好きやった、強いやつが弱いやつを守ることを当然や思うてるアンタに憧れてた！！」

『淼さん、』

私がそうならなければいけなかった理由も知らないくせに、私がどれだけ苦しい胸の内を抱えてきたか知らないくせに、私がどう思っていたかも知らないくせに、でも、でも私のこと見ててくれてたんだね、憧れてくれてたんだ。

それだけを生き甲斐としてきた彼女を、心底いじらしいと思った、憎らしいと思った、恨めしいとさえ思った。ないものねだりはお互いね。

だから私はぐちゃぐちゃの気持ちを全部飲み干して、大きく深呼吸して、下唇をすこし噛んだ。そうしていないと泣きそうだった。

『…………ありがとう、』

一度もあなたのこと負かしただなんて思ってない、何度膝をついても、這いつくばっても、私を追いかけてきてくれて、嬉しかった。

私たちは抱き締めあった。お互いの存在を焼き付けるように、そうしてしばらく無言でいた。

「急に押しかけてしもて、ほんまに堪忍なァ、また連絡するからね」

『ええ、いつでも待ってるのだわ！』

「………ほな、元気で」

タクシーに乗り込む彼女を見送る。見えなくなるまで私は大きく手を振った。