幸せを運ぶクオッカワラビー (ページ4)

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『......』

「...Aさん？」

ヒラヒラ、と目の前で揺れている右手を見て、

やっと現実に引き戻される。

...ほんの数秒前、彼の口から放たれた言葉が

あまりにも衝撃的だった。

「ここに置いてほしい」、なんて、

予想をはるかに超えていたどころか、

こんなことを言われる日が来ようとは

夢にも思わなかったから。

『えっと.....どうしてこうなった？』

「僕が置いてくれって言ったから？」

『そうなんだけど、そうじゃなくて！！

そこに至るまでの経緯の話！』

「あー...そうでした。すっかり言うの忘れてた」

右手で軽く頬を搔きながら

あはは、と申し訳なさそうに笑うジソン君。

彼の持つ雰囲気や一つ一つの行動はとてもユニークで、

ちょっと天然なのかな？って、思ったりもした。

「話、少し長くなっちゃうかもですけど...」

そう言いながら、自分の右ポケットに手をかける。

するとすぐに、天井の明かりをピカッと反射させ

無機質でシンプルなカバーに包まれたスマホが姿を現した。

「僕、ハンジソンって言います」

『はい、知ってます』

「ステ、、ファンの子からは、

リスみたい、クオッカみたいってよく言われるんですけど」

『あー、分かります分かります...って、んん！？』

.

「...実は、アイドルやってます」

.

『あっ、あ、アイドルっ！？！』

「はい！アイドルです」

...予想外の言葉に、口がぱっくりと開く。

開いた口が塞がらないとはこの事か。

『えっ....ええぇっ！？』

頭の中では、さっきの”置いてください”に変わり

”アイドル”という言葉が何度もループしている。

驚きのカミングアウトに口をあんぐりしながら動けないでいると

見かねたジソン君は人差し指を口の前に持ってきながら、

ははっ、と、少し照れくさそうに笑って言った。

「秘密ですよ？」、と。

『アイドル......』

だけど、最初こそ驚いたものの

今までを振り返ると、なるほどなと思う。

彼が着ている服が全身真っ黒なのは目立たなくするためだろうし、

帽子やマスクを付けているのも、きっと変装のためだろう。

金髪も、本業がアイドルなら納得がいく。

なんだか、心にかかっていた靄が消えたみたいに、