17話 歌って ページ19
「ここは…?」
「夫の部屋。亡くなったときのまんま。」
校長先生は悲しそうに言う。
「座って」
真琴が、座りその隣に私も座る。
私たちが座ると、校長先生は愛した人のことを私たちに話してくれた。
「彼も、音楽の教師でね。才能ある合唱の指導者だった。」
思い出に浸るように、校長先生はゆっくり話した。
「そんな彼と歌う時間が何より幸せだった。」
校長先生の思い出の歌は、心の瞳。
「その彼に、すい臓癌が見つかってね。選択肢は2つ。入院して抗がん剤治療に専念するか、治療せずに、この家で、残された時間を静かに過ごすか。」
校長先生は立ち上がる。
校長先生は旦那さんに治療しようと言ったという。
「私は彼に生きてほしかった。」
戦おう。
旦那さんはそう言って校長先生の手を取ったと。
「優しい彼は私の願いを受け入れた。またここで歌うことを励みに。彼は坂本九さんの心の瞳っていう歌が好きでね。」
私たちの前に座った校長先生はその時のことを懐かしそうに、悲しそうに語り続ける。
「それをまた一緒に歌おう。だから頑張ろう。頑張ろう、って。結局壮絶な抗がん剤治療を繰り返して。」
その先は、何となく想像が出来た。
「あの人は逝ってしまった。この部屋に帰ってくることも、再び歌うこともないまま。」
そして、校長先生は私たちの方を見た。
「私のせいよ。」
『…そんなこと』
「さっき一緒に歌おうって誘ってくれて、嬉しかった。」
「はい」
そんなことない。
校長先生のせいなわけがない。
「でもね、もう歌わないって決めたのよ。私だけで抜け駆けして歌うなんて、出来ないの…。」
涙を流す校長先生。
「先生、言ってくれたじゃないですか。」
ー誰にでも、歌う資格はあるのよ。ー
「あれ、嬉しかったのに。私は歌っちゃいけない人なんていないと思います。だってあんなに合唱が好きなのに。」
『校長先生にも、歌ってほしいです。』
私と真琴の心からの願い。
校長先生は微笑んだ。
私と真琴は立ち上がり、その部屋を後にした。
部屋に戻れば2人とも眠かったのか何も話さず眠りに落ちた。
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天空(プロフ) - アミーイさん» ありがとうございます!頑張ります! (2015年9月9日 12時) (レス) id: b7aadead77 (このIDを非表示/違反報告)
アミーイ - どんどん書いてください。私、楽しみにしています (2015年9月8日 21時) (レス) id: f377129df1 (このIDを非表示/違反報告)
天空(プロフ) - そらさん» これかバンバン更新していきます! (2015年9月7日 17時) (レス) id: b7aadead77 (このIDを非表示/違反報告)
天空(プロフ) - るんさん» たくさんコメントありがとうございます!頑張ります! (2015年9月7日 17時) (レス) id: b7aadead77 (このIDを非表示/違反報告)
天空(プロフ) - ニコさん» 頑張ります!応援お願いします! (2015年9月7日 17時) (レス) id: b7aadead77 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:天空 | 作成日時:2015年9月5日 18時