34 花 ページ35
夢主視点
足音さえも聞こえない無音の世界。
静かな時間が続く。
昔はよく、社に座って参拝者が訪れるのを待ってい
たものだ。
レイコ以外、誰も訪れなかったが。
およそ八百年前のこと。
この山と共に、私はずっと、流れ行く時代を眺めて
いかなければならなかった。
世界は、私を置いて廻っていく。
時代も、季節もくるくると。
人も、花も同じだ。
咲いたと思えば散り急ぎ、散ったと思えばまた咲き
誇る。
一つ一つの花々は、美しく魅せようと懸命に輝く。
しかし、その一つ一つの花々に目を向ける者はそ
う、多くない。
嗚呼、なんて愚かで滑稽なのだろう。
どんなに輝いても、誰にも評価されないのに。
人も、花も世界を彩る為の小道具なのに。
見ていて笑いがこみ上げてくる。
涙が溢れてくる。
雫が頰を伝って地面に落ちる。
ああ、涙が止まらない。
拭いても、拭いても流れてくる。
そのうち、全てが虚しくなった。
嗚呼、愚かだ。
嗚呼、滑稽な。
私はそんな小さな花に惹かれて、こんなにも大きな
過ちを犯してしまった。
神になってしまった。
なんて馬鹿なのだろう。
《私》を知っている者はもう、どこにもいない。
もう、誰もいない。
……もう、此の世にはいない。
私は、光を、温もりを知ってしまった。
だから全てを喪った今、こんなにも寂しいのだ。
辛いのだ。
胸が締め付けられる。
ずっと闇の中で、鋼と共に生きていたら…。
淡々と命令をこなす人形の様に生きていたら…。
「……きっと、孤独を知らずに済んだのに。」
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作者名:トロみん | 作成日時:2017年4月22日 0時