【夏目友人帳】桜舞う頃に (ページ34)

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夢主視点

背後で何かが倒れる音がした。

振り返ると、夏目君が倒れている。

急いで駆け寄って、異常がないか調べる。

「結界に当てられたか。」

同じく、駆け寄って来たニャンコ先生が言った。

「呼吸も正常。特に異常はない。

私が背負って行こう。社はもうすぐだ。」

そう言って、夏目君を背負う。

そして、ゆっくりと歩き始める。

やはりここに人を連れて来てはいけなかったのだと

後悔した。

私達の足音だけが響き渡る。

「ここは異様なほどに静かだな。

お前の他に、ここに住む生き物はいるのか。」

ニャンコ先生が、静かに聞いてきた。

「後は、私の使い魔だけだ。

それ以外は何もいない。人も、動物も、神様も。

この山にはあまり人が寄り付かなくてね、人が来て

も逃げ帰ってしまう。

この世界には《音》がないから。」

歩きながら、話を続ける。

「人は、この結界の中の世界をこう例えた。

《絵本の中の、美しく残酷な世界》と。

絵本には、音楽はない。

でも、誰かが読むことによって、物語が紡がれ、絵

本の中の時が動き出す。

そしてやっと、音楽も聞こえてくるんだ。

可愛らしい小鳥のさえずり、誰かの声、胸が弾む様

な楽器の音。

外の世界もそうだ。

一人ずつ紡がれていく物語がある。

だから、騒がしいぐらいの音が溢れているんだ。

でもここには、紡がれる物語がない。

だから、時は止まったまま動かず、音楽も聞こえな

い。

…後もう少しで社に着く。

詳しいことは、また後で話そう。」