【夏目友人帳】桜舞う頃に (ページ30)

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夏目視点

その夜も、不思議な夢をみた。

満開の桜が見える、神社の様な小さな建物の中。

例の桜の夢に出て来た男性が座っていた。

あの夢では顔は見えなかったけれど、この夢では、

はっきりと見えた。

形の良い切れ長の目、細い眉毛。

少し厳しそうな、でも良く整った顔だった。

男性の膝の中に小さな女の子がいる。

どうやら読み聞かせをしている様だ。

『昔々、あるところに一人の男がいました。

男は大切な目的を果たす為、旅に出ました。

長い旅路になりそうです。

ある日、男は猿に出会いました。

その猿には、知恵がありました。

猿は男に説き伏せられ、仲間になりました。

そして、その他二匹の動物を仲間にしました。

目的地までの旅は続きます。

すると、舟が必要な場所に来ました。

目的地まであともう少しです。

一人と三匹は、力を合わせました。

そして男はついに、目的地まで辿り着きました。

男は目的を果たし、宝物を持って帰路に着きました

とさ。めでたし、めでたし。』

小さな拍手が響く。嬉しそうな声も聞こえる。

男性の声は、どこかで聞いたことがあった。

なかなか思い出せずに考えていると、いきなり男性

が立ち上がった。

女の子の姿はない。

しかし、男性は気にしないでどこかへ歩いていく。

見えた背中は、あの夢の中の様に大きかった。

この建物は山奥にあったらしい。

山を降りて、人の町まで行くには時間がかかった。

その道中では、色鮮やかな桜が咲き誇っていた。

人の町に近付くにつれて男性の姿が変化していく。

着物から洋服へ、長髪から短髪へ。

まるで時代をを駆け抜けている様だ。

そして人の町まで降りて来た時には、見覚えのある

姿になっていた。

…その男性は、Aさんだった。