【夏目友人帳】桜舞う頃に (ページ2)

今日:9 hit、昨日:5 hit、合計:92,758 hit

1 少女ページ2

夢主視点

春。それは桜が世界を染め上げる季節。

人の気持ちは舞い上がり、色付く花弁は舞い落ちる。

夢のように儚いそれは、私にひとときの安らぎを与

えてくれた。

「綺麗だな…。」

そう呟いても、空が花びらと共に吸い込んでいって

しまった。

ある日、一人の少女が私の社に来た。

「ねえ、神様。私と勝負しない？」

いたずらっ子のような目で見てくるその少女には、

私が見えているらしい。

私はとても驚いた。だから、

「君は？」

と、つい聞いてしまった。

「私はレイコよ。よろしくね。」

レイコと名乗った少女は、当たり前のように名乗っ

て柔らかく笑う。

なぜかその笑顔がさみしそうに見えたので、うっか

り勝負の誘いにのってしまった。

私は負けた。

後で知ったことだが、レイコは妖怪の名前を集めて

いるらしい。

「じゃあ、この紙に名前を書いて。」

細長い紙を差し出して彼女は言う。

「こんなのもらって何になるのだ、レイコ。」

私は名前を書いた紙を渡しながら聞く。

「内緒よ。…へぇ、良い名前ね。」

「ありがとう。里の者達には『春様』と呼ばれてい

るよ。私も気に入っているんだ。」

「人気なのね、春様。」

いたずらっぽく笑って来た彼女は、どこか遠くへ行

ってしまいそうな気がした。

桜がもう少しで満開になる頃だった。