そんなに、上手くない ページ1
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「いらっしゃいませ」
カウンターが6席、2人がけの小さなテーブルが2席、それにダーツ台が3つ。
大きくないダーツバーに努めるようになってもう5年。気づいたら年齢も20代後半、あと数か月で29歳になる。
仕事に不満はない。だって飲食楽しいし。
嫌な客はもちろんいるけど、お客さんが満足して帰ってくれればそれでいい。
1日たりとも同じ日がこないのは、飲食業の特権だと思う。
銀座や六本木みたいに高級な訳でも、渋谷や池袋みたいに騒がしい訳でもない、適度に騒がしく、それでいて穏やかな町を気に入っていた。
(暴れる客も、いないしね…)
昔は都心部で働いていたこともあった。古い知り合いの店にヘルプに行ったりもする。
それを楽しく思えるのはここがホームで、帰る場所があるからだ。
頭の片隅でそんな懐かしいことを思い出しながら、お客さんをカウンターへと案内する。
俺よりもいくつか年下の男の…子？はビールだけ注文すると、ダーツしていいですか、とすぐに端のダーツ台に向かった。
平日の23時、他のお客様は常連の1組だけ。この方たちは別にダーツが好き！！で来られているわけでもなく、落ち着いた店の空気と、俺のおぼつかないカクテルを好きだと言ってくれた。
店内には、少しの話声、ディロン、というダーツ台の音。
たまに聞こえるブル、ブル、ブル。お、ハットトリック。
心の中で小さく拍手を送ると同時にちらりと視線だけ向ける。眠たそうだっためを少しだけ細めて、小さくガッツポーズをした彼がほほえましくて、こちらまで嬉しくなる。
カウントアップを2ゲーム、決して下手ではない点数を出してこちらへ戻ってくる彼と同時に常連がチェック、店内に残されたのは俺と彼の2人だった。
たまに、スタッフと2人になるのを嫌がるお客さんもいるのだけど、どうやらそういうタイプでもないらしい。
機嫌よく携帯を触る姿をみるとこちらの気も少しまぎれた。
(新規との2人はちょっと気を遣うよなー…)
それでも、話かけるんだけど。それが仕事だし。
「お兄さん、ダーツ上手ですね」
ぱ、と顔をあげると少し重めの二重が良く見える。
金髪が良く似合う、男前だなという印象。日本人らしい黒目は店内のライトに照らされてきらきらと輝く。
ささいなきっかけだし、自分としては業務の一環でしかなかったのだが、この金髪の男前とは思ったよりも話が弾んだ。
ダーツは最近始めたこと、バンドをやってること、Youtubeに投稿していること、
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作者名：さく | 作成日時：2020年9月11日 18時
