溜息 Part11

４６６　夢主過去編 ページ1

．



19年前


ここは世界貴族、天竜人達が暮らすマリージョア


ーーーー、ーーーー、


人間達の耳には聞こえない元気な産声

その声は美しい人魚の鼓膜を震わせた


〈ごめんなさい、こんな所で……、産んでしまって…〉


人魚は涙を流す


〈だけど…、生まれてきてくれて…ありがとう〉


人魚は小さな命を抱きしめ、沢山の愛を注ぐ


ガチャンッ


「終わったのか！？早く寄越すんだ！！！」

「…っつ……あぁっ…」


人魚は少しの抵抗をしたが、蹴り飛ばされ赤ん坊は人間の手に奪われる


バタンッ


扉は閉じた


〈…ごめん、なさい…ごめんなさい…〉


ガコン

ザザザァー


壁から水が流れ出し、やがて部屋は水槽へと変わる

二股から１つに戻り、白白とした肌が輝いた


Aゼロ歳


人の行き交う場所に造られたガラスの大きな円柱

それは綺麗にレイアウトされた水槽

人間達の好奇の目に晒されながら、美しい人魚は飼われていた

額に2本の大きなツノを携えた真白な人魚

彼女はAの母、ヤクシニー・セレーナ

昔話に出てくるような伝説と言われる海王類の末裔だ

最強の海王類はヤクシニーと名を持ち、密かに魚人や人魚の血族と結ばれながらも子孫を残していた

セレーナの体は大きく、産まれたばかりのAは片手に収まる

Aの温もりを忘れないようにと何度も何度も手を握りしめた



彼女を奪われてから3日が経った


「その魚、死なせるなよ」


その一言と共に渡されたのは、体は傷だらけで弱りきったAだった


産まれたばかりの小さな身体に出来た傷に涙が溢れる


〈…A…、あなたの名前はAよ〉


セレーナは我が子を抱きしめた


〈本当にごめんなさい…〉


Aはこの頃から回復力が高く、母乳を飲み心地良い水の中にいる事で直ぐに元気になった

それに気付いた人間達はAを奪い取りまた何処かへ連れて行く

そして疲弊し傷だらけで戻ってくる

そんな日々を送りながらAは成長していった


セレーナは珊瑚に体を預け、眠るAを優しく撫でる

小さなツノに真白な体、赤い瞳に三枚の尾鰭


セ〈…私と同じね〉


小さな身体に作られた数々の傷


セ〈…焼印…〉


Aの声は人間には聞こえない

どんなに泣き叫んでも彼等には聞こえない

直ぐに治ってしまう身体のせいで何度も焼印を押されているのだと分かった時セレーナは心臓が抉られる思いだった



．

４６７→

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す