春の夜の夢の如し (ページ5)

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そのあとも中島さんは、私がウブだとか、恋愛が下手すぎるとか、菊池さんがどういう人だとか、そんなことをビール片手に延々と語り続けた。
そして今、彼は爆睡している。

閉店時間はとっくに過ぎているのに、終電はたった今発車したし車もない、タクシーを呼ぼうにもそもそも彼の自宅がどこかなんてわからない。

お店の店長さんが知り合いであることがせめてもの救いだ。

｢俺今日ここに泊まろうか？中島と一緒に｣
｢そんなに迷惑かけられませんよ！｣
｢だってどうすんの？｣
｢…佐藤くんに連絡してみます｣

真夜中に連絡するのも気が引けるけれど、こんな連絡ができるほど親しい人は彼しかいない。

無機質な呼び出し音が数回続いて、プツッとそれが途切れた。

こんな時間に云々と少々文句を言われながら今この状況を説明したら、わざわざ迎えに来てくれると言う。
芸能人である中島さんの住所を教えろとも言いづらくて、申し訳なく思いながらもお願いした。

｢なんとか帰れるみたいだね｣
｢はい、遅くまですみません｣
｢いいのいいのー！気にしないで｣
｢ありがとうございます。お会計してください｣

カバンの中からお財布を取り出しながらそんなことを言うと、店長さんはクスクスと笑った。

｢お会計は済んでるよ｣
｢え？｣
｢中島が女の子にお金出させるわけないだろ｣

言われてみれば確かに、中島さんはそういう人だ。
今までずっと、お金を払わせてくれた試しはない。
そうは言っても、こんな状態でさえ出させて貰えないなんて、どれだけ紳士になれば気が済むのか。

いつか絶対にご飯を奢ってやる。

流れていたBGMもいつの間にか消えていて、店内には言うまでもなく私たちしか残っていない。
こんな時間までここにいるのも、中島さんが酔いつぶれるのも、本当に珍しい。

きっと、疲れが溜まっていたのだろうと思う。

少しだけ残っていたビールを飲みながら、しばらく店長さんと他愛ない話をしていると、お店の扉が開く音がした。

すぐに着くと思うから、と佐藤くんが言っていたのを思い出して、やっと帰れると息を着く。
待ってましたと言わんばかりに振り向くと、そこに居たのは佐藤くんではなかった。

｢き、菊池さん…？｣