春の夜の夢の如し (ページ4)

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雑誌の撮影と取材の後は、菊池さんとマリウスくんの番組収録へついて行き、今日の業務を終えた。
メイクバッグを置きに一度マンションに帰って、少しだけ身支度を整え直してから、中島さんが待っているであろう場所へと向かう。

人通りの少ない道を足早に通り抜けて、芸能人御用達の居酒屋「隠れ家」の扉を開けた。
店名がそのまんまで、結構好きだ。

「あ、おつかれ」
「お疲れ様です」

ジョッキを手に持っていた中島さんが、個室に案内された私を見てそう言った。
テーブルにはもうすでに2つの空のジョッキが置いてあって、彼の片手のビールは3杯目だと知る。

「今日ペース早くないですか？」
「明日は久しぶりに1日オフだからね」
「ああ、なるほど」

めまぐるしく回る毎日を共にしていると、ここ最近の忙しさに気づく。
映画やドラマ、バラエティに報道番組、レコーディングのほかにライブの準備も始まっていて、改めて、彼らはすごいのだと実感させられる。

置いていかれないように頑張らなければ。

「なーんかいい雰囲気だったじゃん？」

すぐに運ばれてきたビールで乾杯してお通しに箸をつけようとしたら、突然そんな言葉が飛んでくる。
お通しを1口食べて中島さんのほうを向けば、彼は火照った頬をピンクにしながらニヤニヤ笑っている。

なんの話かなんて考える必要もなくて、今日ここに呼ばれた理由を思い出した。

「最近は結構いつもあんな感じです」
「やっと慣れてきたでしょ」
「本当にやっとですね」

ここまでくるのに、それはそれは相当な時間を費やした。
いつまでも初恋の中学生みたいに緊張して、自分から話しかけるなんてもってのほかだった。

最も、ここまでこれたのは中島さんのおかげなのだけど。

｢ほんと、ウブすぎて手が焼けるよ｣
｢お世話になってます｣

そりゃあ私だって、もう少し大人な恋愛が出来ればなぁっておもってるよ。
こんな私じゃあ、大人っぽい菊池さんに相手にされるはずもない。

もっとこう、スレンダーで、色気があって、ものすごい高いピンヒールとかが似合っちゃうような、そんな人が彼の近くにはたくさんいる。

私のことなんて、面白いペットくらいにしか思ってないんだろうな。