春の夜の夢の如し (ページ11)

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そうこうしているうちに次の現場へ移動する時間になっていて、ちょうど楽屋を出た所にいた根岸さんに睨まれながらテレビ局を後にした。

佐藤くんはきっと根岸さんのお気に入りなんだと思う。
撮影の合間も休憩も、必ずと言っていいほど佐藤くんに水を渡しに行っていたし、ほかのメンバーと一緒にいる時は佐藤くんといる時ほど睨まれたりしない。

国宝級の顔面を持っていて、これがジャニーズときた。
まあ、モテるのも納得がいくけれど。

SexyZoneはイケメン揃いなのだ。
顔面偏差値はきっとハーバードレベルだろう。
そんな人達にメイクやヘアセットを施しているなんて、おこがましすぎやしないだろうか。

車窓の外を眺めながらぼんやりとそんなことを考えていたら、スマホが着信を伝える。

｢…今起きたのかな｣
｢そうなんだと思う｣

着信に気づいた佐藤くんが、私のスマホの画面を覗いて苦笑した。
画面に表示されているのは"中島さん"の文字。

｢もしもし、お疲れ様です｣
『あ、おはようAちゃん。今電話平気？』
｢はい。やっぱり今起きたんですね？｣
『そう。頭痛い』

その後はしばらく今の具合の悪さを語られた。
あー、そうなんだー、あははー、ぐらいにしか聞いていなかったから、頭痛いことしか記憶にない。

彼との電話は長くなる。
彼が本題に入るまでの時間が長いのだ。
その癖はどうにかした方がいいと思うけれど、それが彼なのだから仕方ないか。

昨夜はどうやって帰ったのかとか、何時までいたのかとか、そんな話を少しして、ほんとごめんねー、菊池にも電話しとくわー、なんてあくびしながら言われて一方的に電話を切った。

｢まるで反省してないね｣

隣で聞き耳を立てていた佐藤くんにそう言われ、私はひとつため息を落とした。

｢これは次もあるなー。次は直接風磨くんに連絡してね｣
｢もう二度とあんなに飲ませたりしないもん｣
｢止められなかったからああなったんでしょ？｣
｢止めるもん！｣

ムキになる私を見て、佐藤くんはまた楽しそうに笑った。

同い年だからか、佐藤くんと話すのは楽だ。

私といる時の佐藤くんは、メンバーといる時と同じくらい楽しそうだといつかの中島さんが言っていた。
だから、佐藤くんもきっと私と話すのは楽なんだろうと思うのは自惚れではないはずだ。

出会った頃より少し大人びた佐藤くんの横顔を、ビルの隙間から差し込んだ夕日が照らした。