赤也と柳と片目のイレーヌ8 ページ22
「…と、まぁ…大雑把に言うとこんな感じっすかね…」
そう言って話を終えた赤也の表情は、最初この空き教室に来た時よりも曇っていた。
“話して”と言ったものの、そんな事があったと知った今、少し赤也とAに悪い事をしたなと思う。
「ありがとう赤也、私じゃ説明出来なかった」
「…」
と、返事もしないで赤也はそっぽを向いたまま。
「ちょっと…赤也」
「先輩」
赤也に少し注意をしようとした俺を止めたのは、他でもないAだった。
「赤也はずっと自分のせいだって思ってるんです…私はそんなふうに思ってないけれど…」
「お前がどう言おうが“俺がやった”っつー事実に変わりはねぇんだ、いい加減にしてくれ」
歯を食いしばる。
泣きそうな顔でそう言い放った赤也。
「っわりぃ…A、幸村部長…俺、もう帰るっす…」
下を向いていて表情は見えなかったが、その声は震えていた。
あと少し話してしまえば涙が止まらなくなる…そんな声と仕草で赤也は教室を出ていった。
そんな赤也を悲しそうに見つめるA。
「A」
「…はい」
「今聞いた話からして…正直言うと俺は“赤也はAを助けた命の恩人”だとは思えないんだけど…」
おずおずとAにそう尋ねる。
「…あの後、もちろんすぐに応急処置をして病院に行きました。
そこで言われたんです。
“君が咄嗟に左手で自身を庇わなかったら、両目失明…それにガラスの刺さる位置が悪かったら、命を落としていた確率だってそう低くはなかった”
って…」
言葉が出なかった。
ボールを誤って蹴ってしまった本人に、命を救われるだなんて。
なんという皮肉だ。
勿論Aだって、赤也を責めるべきか否か…相当悩んだことだろう。
「…でもやっぱり、赤也を責めることはできませんでした…
ボールをこっちに蹴ろうだなんて全く思っていないはずですし、
それに私を助けようと直ぐに大声を出してくれたじゃないですか
…そんな優しい奴を恨む方が…どうかしてるんです」
なぜだか涙が出そうだった。
儚い表情をしているのに、人一倍自身の意志が篭った真っ直ぐな瞳に、俺は心動かされる。
こうしてまた、叶わない恋だと知っても、彼女の事を更に好きになってしまうのだ。
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百地(プロフ) - 赤也本当に大変な事したな・・・でもやっぱ面白いです!よく考えられている小説な気がします (2018年7月27日 13時) (レス) id: 2de6e8f809 (このIDを非表示/違反報告)
冬音(プロフ) - 百地さん» 幸村君もそろそろ神の子アピールしないと自分の異名が「魔王」になってしまうと勘づいたんですよ、きっと。(多分) (2018年7月26日 15時) (レス) id: 24c430e211 (このIDを非表示/違反報告)
百地(プロフ) - 今日の幸村は魔王じゃないだと・・・!? (2018年7月26日 15時) (レス) id: 2de6e8f809 (このIDを非表示/違反報告)
冬音(プロフ) - 百地さん» たまらん四角関係だ… (2018年7月26日 15時) (レス) id: 24c430e211 (このIDを非表示/違反報告)
百地(プロフ) - 泣きそうな赤也を慰めたい。こういう四角関係大好物だ! (2018年6月13日 21時) (レス) id: 2de6e8f809 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:冬音 | 作成日時:2018年4月15日 18時