八 ページ9
「平蔵、いるんだろ」
少女の家から離れ、
少し経っても一向に姿を見せないので
仕方なく声を掛ける。
すると平蔵は「さすがA、バレちゃったか」と
悪びれもせずに物陰から出てきた。
「どうして隠れてたんだい」
「何か手掛かりが掴めるかも！ って。でもまた誤魔化されちゃった」
「本当に諦めないよね。いくら叩いたって何も出てこないよ」
僕が少女を抱っこした辺りから、
平蔵はずっと僕らの会話を盗み聞きしていた。
まあ僕は、平蔵が戻ってきたのに
すぐ気付いていたけど。
「Aこそ、そろそろ諦めてもいいんじゃないの」
「何度も言うけど、あれは──」
「──じ・け・ん。事件だよ、絶対にね。僕だって何度も言うよ」
「……はぁ。もう、早く帰ろう。お腹空いたし」
「あっ、ちょっと待ってよ！」
こんな言い合いは日常茶飯事で、
この後拗ねた平蔵の機嫌をご飯で釣るところまでが
いつもの流れ。
平蔵はもう何年も、あの一件を事件だと言って
隙あらば僕から情報を聞き出そうとしてくる。
まあ、あの"事故"の真相を知ってるのが
僕だけなのは間違いないんだけれど。
「……ねえA、僕は何も、真実を暴きたいって気持ちだけでこんなに固執してるわけじゃないんだよ？」
平蔵はそう言って表情を曇らせる。
「僕は君の身に起きたことを共有して、一緒に抱えたいだけ。……幼馴染なのに、弱音の一つも聞けないなんて寂しいよ」
足を止めてしまった平蔵を振り返り、
俯いてる彼を見て、胸が痛む。
その気持ちは純粋に嬉しいと思うし、
同時に申し訳なくて、困った。
「ごめんね、平蔵。……僕はちゃんと平蔵のことを頼りにしているよ。隣を歩いてくれるだけで十分なんだ」
「……夜、まだ怖いんでしょ？」
「うん。だから、今日も戻ってきてくれて嬉しかった」
そう言いながら平蔵の頭を撫でてみるけど、
平蔵の顔は依然として暗いままだった。
「あんまり焦らすと嫌いになっちゃうよ」
「ええ、それは悲しいな。だけどならないんだろ？」
「どうだろうね」
平蔵はツン、とそっぽを向いて
スタスタと歩き出してしまう。
その背中を眺めていれば、
数メートル離れたところで振り返り、
こちらに戻ってきて、僕の右手首を掴んだ。
「なるわけないじゃない。もう」
そう言い、そのまま僕の手を引いて帰る平蔵。
堪えていたけど、堪えきれず笑ったら、
平蔵は僕の手を振り落とすように離すのだった。
- 金 運: ★☆☆☆☆
- 恋愛運: ★★★☆☆
- 健康運: ★★★★★
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m - コメント失礼します。題名と内容が本当に綺麗に収まっていて、とっても感動しました。読んでいてると、いつの間にかお話に入り込んでしまうような、綺麗な文章と構成に本当に尊敬します。いつか、作者様が明るい気持ちでこちらへ帰ってきてくださることを願います。 (8月16日 23時) (
レス) id: 682a324aa4 (このIDを非表示/違反報告)
塩キャラメル(プロフ) - 涙ドバドバ…大好きですもう…。主様のスピードで大丈夫です。いつでも待ってます。 (5月22日 22時) (レス) @page16 id: fdfca7d6d9 (このIDを非表示/違反報告)
なっつ。(プロフ) - すっっっごく気になる所で終わっている...ゆっくりでもいいので続き待ってます...！！ (2023年3月21日 1時) (レス) @page16 id: f68b2b1abd (このIDを非表示/違反報告)
成瀬(プロフ) - すごく好きな作品です……！ 更新待ってます！ どうか無理せずに頑張ってください (2022年12月8日 0時) (レス) @page16 id: 5abadf1a2d (このIDを非表示/違反報告)
ゆずポン美味しい - これを見るのが毎日の日課じゃぁああ！…あｯすみません！更新楽しみにしてます！頑張ってください！ (2022年8月12日 2時) (レス) id: 3d7d623247 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：Re: | 作者ホームページ：http://uranai
作成日時：2022年7月25日 19時
