五 ページ6
side.S
もう聞き飽きたやり取りをしてから、
僕は目を瞑ったまま悶々としていた。
何年その顔を見てきたと思ってるんだ。
僕に嘘が通じないことくらい分かっているだろうし
その返答に僕が納得しないことも知っているだろう。
あの時、Aは目覚めてからというもの、
以前と変わらない様子で淡々と過ごしていた。
身体の一部を失ったというのに
不自然すぎるほど、"いつも通り"だった。
でも、僕は知っている。
Aが夜を怖がり
上手く眠れなくなっていたことも、
人知れず泣いていたことも。
それでも大人や僕に悟られ、心配させないよう、
一人で全て抱え込み、欺いたことも。
Aが運ばれていくシーンを何度も夢に見て、
その度飛び起きてしまっていた幼い僕の背中を
「大丈夫だからね」と申し訳なさそうに擦っていた。
Aの方が、
よっぽど酷い夢を見ていたはずなのに。
違和感を覚えたのはAの目が覚めてからだった。
Aは奉行所からの事情聴取に対して、
「山奥に迷い込んで、道に迷って遭難していたところをヒルチャールに見つかり、斧で腕を切り落とされた」
と詳しく説明した。
僕にとっては疑問だらけだったけど、
同心達はそれに何の疑念も抱かず処理を進めた。
一つ目、彼ほど用心深い人が、
好奇心だけで考え無しに山奥に進んで
そのまま戻れなくなって二週間も遭難するのか？
それについて問えば、Aは
「崖から足を滑らせて、知らない山道まで落ちてしまった」
と説明した。
しかし僕の知っているAは
石橋を叩きすぎて壊すような人間で、
一緒に山へ行った時だって
崖や川には近寄りもしなかった。
それなのにその日は"偶然"、
崖に近寄ったとでもいうのだろうか。
梅雨の、足が滑りやすいこの時期に、わざわざ？
それについては
「平蔵がいるときは危ないから近寄らないだけ」
と言っていたけど、
そんな付け焼き刃の誤魔化しでは僕は騙されない。
二つ目、
「襲われた」ではなく「切り落とされた」。
ヒルチャールは
相手の部位を狙って攻撃するような魔物ではない。
単に腕の喪失感が強くて
その言葉選びになった可能性もあるけれど、
Aはヒルチャールの行動を
「見つかった」「切り落とされた」
としか言っていない。
どうしてAはヒルチャールに見つかって、
どうしてヒルチャールは腕を切り落としたのか。
そもそもAは本当に、
ヒルチャールに襲われていたのだろうか？
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m - コメント失礼します。題名と内容が本当に綺麗に収まっていて、とっても感動しました。読んでいてると、いつの間にかお話に入り込んでしまうような、綺麗な文章と構成に本当に尊敬します。いつか、作者様が明るい気持ちでこちらへ帰ってきてくださることを願います。 (8月16日 23時) (
レス) id: 682a324aa4 (このIDを非表示/違反報告)
塩キャラメル(プロフ) - 涙ドバドバ…大好きですもう…。主様のスピードで大丈夫です。いつでも待ってます。 (5月22日 22時) (レス) @page16 id: fdfca7d6d9 (このIDを非表示/違反報告)
なっつ。(プロフ) - すっっっごく気になる所で終わっている...ゆっくりでもいいので続き待ってます...！！ (2023年3月21日 1時) (レス) @page16 id: f68b2b1abd (このIDを非表示/違反報告)
成瀬(プロフ) - すごく好きな作品です……！ 更新待ってます！ どうか無理せずに頑張ってください (2022年12月8日 0時) (レス) @page16 id: 5abadf1a2d (このIDを非表示/違反報告)
ゆずポン美味しい - これを見るのが毎日の日課じゃぁああ！…あｯすみません！更新楽しみにしてます！頑張ってください！ (2022年8月12日 2時) (レス) id: 3d7d623247 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：Re: | 作者ホームページ：http://uranai
作成日時：2022年7月25日 19時
