十五 ページ16
「いったた……ちょっと、A……？」
文句の一つでも言おうかと思ったけど、
僕の上に乗ったまま、胸に縋り付くように
張り付いて小刻みに震えられると、何も言えず。
戸惑ったけど、そっと頭を撫でてみると
Aはそれを受け入れながら、何度も僕を呼んだ。
「……っ、い゛……」
また幻肢痛が襲い始めたのか、
Aが僕の胸元の服を強く握り締める。
Aの左肩を優しく撫でてやりながら、
その様子を注意深く観察した。
こんなに取り乱すAは初めて見た。
時々、「やだ」とか「ごめんなさい」とか
……「たすけて」、とか。
途切れ途切れに、そんな言葉を漏らすA。
当時のことを思い出しているのだろうか。
──魔物相手に、出てくる言葉では無いような。
「A……それ、」
「へいぞ…………に、……て……」
「え？」
「…………にげ、て」
その言葉を最後に、Aからふっと力が抜ける。
…………「平蔵、逃げて」？
「……なんだよ、それ」
────やっぱり"事件"じゃないか。
ぐつ、とドス黒い、憤怒の感情が沸き上がる。
Aに対してでは無い。
これはAを陥れた相手の、
その罪悪に対してだ。
Aを落とさないよう、支えながら起き上がる。
まるで悪夢を見た幼子のように、
頬を濡らし、眉を下げたまま
未だ苦しそうに眠るA。
「こんなの聞いたら……もう手加減出来ないよ」
君が頑なに黙秘を貫く理由が
他でもない、僕を守るため、ならば。
もう遠慮する必要はない。
その後、僕はAを
かかりつけの診療所まで運んで、
医者に預けてから、奉行所に向かった。
あの日の資料を引っ張り出して、
もう一度、隈無く洗い直す。
でも、相変わらず少ない情報しか掲載されていない。
そこで僕は、当時住んでいた場所とその付近で
直近に起きた事件の資料をすべて掻き集めた。
僕の直感が、そうするべきだと言ったから。
膨大な量の紙類になったけれど
全部に目を通し、似たような事件や事例が無いか
注意深く読み漁った。
それでも見つからなければ、
更に範囲を広げて読み、捜す、繰り返し。
そうして夜明けも近くなった頃、
ひとつ、小さな、だけど重大な手掛かりを得た。
終わり
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m - コメント失礼します。題名と内容が本当に綺麗に収まっていて、とっても感動しました。読んでいてると、いつの間にかお話に入り込んでしまうような、綺麗な文章と構成に本当に尊敬します。いつか、作者様が明るい気持ちでこちらへ帰ってきてくださることを願います。 (8月16日 23時) (
レス) id: 682a324aa4 (このIDを非表示/違反報告)
塩キャラメル(プロフ) - 涙ドバドバ…大好きですもう…。主様のスピードで大丈夫です。いつでも待ってます。 (5月22日 22時) (レス) @page16 id: fdfca7d6d9 (このIDを非表示/違反報告)
なっつ。(プロフ) - すっっっごく気になる所で終わっている...ゆっくりでもいいので続き待ってます...！！ (2023年3月21日 1時) (レス) @page16 id: f68b2b1abd (このIDを非表示/違反報告)
成瀬(プロフ) - すごく好きな作品です……！ 更新待ってます！ どうか無理せずに頑張ってください (2022年12月8日 0時) (レス) @page16 id: 5abadf1a2d (このIDを非表示/違反報告)
ゆずポン美味しい - これを見るのが毎日の日課じゃぁああ！…あｯすみません！更新楽しみにしてます！頑張ってください！ (2022年8月12日 2時) (レス) id: 3d7d623247 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：Re: | 作者ホームページ：http://uranai
作成日時：2022年7月25日 19時
