十三 ページ14
side.U
よく眠れたからか、
体調は昨夜よりもマシになっていた。
熱も下がっているし、
診療所には行かず家で安静にすることにした。
平蔵は龍二事件のことで
万端珊瑚探偵所に顔を出してくると言って出掛けた。
「絶ッ対に、大人しく寝ておいてよ。昼には一度、様子を見に帰ってくるから。いい？ わかった？ 絶対だからね？」
家を出る直前、平蔵にそう強く念押しをされた。
平蔵は僕のことになると、
過保護すぎる節があるような。
その場では分かったと言ったものの、
寝ているだけでは暇が潰せないので
寝巻きのまま、仕事を進めることにした。
もう随分と古びた万年筆を執り、
平蔵が発刊を楽しみにしている推理小説を書き進める。
数年前までは自分で考えたトリックを用いて
書いていたけれど、シリーズが一段落したため
新編からは平蔵をモデルにして、
平蔵が実際に解決した事件を元に書いている。
「Aの目に映る僕を知れるのは新鮮で良い」と
平蔵は相変わらず僕の小説を愛読してくれている。
黙々と書いていれば、
あっという間に昼時になった。
昼に一度帰ってくると言っていたけど、
平蔵は正午を二刻ほど過ぎても
帰ってくる気配はなかった。
もしかしたら、龍二事件のことで
何か手こずっているのかもしれないな。
さすがに疲弊を感じて、一度筆を置いた。
片腕が無いと、残った方の腕ばかり酷使するから
最近は軽い腱鞘炎にも悩まされている。
少し痛む手首を眺めながら、
いつまでこの活動を続けられるだろうか
なんて、らしくない不安に駆られた。
もしこのまま手首の痛みが治らず、悪化すれば、
休載を余儀なくされるだろう。
そうなったら僕は、何をして生きていくのだろうか。
「……っ、……」
ぼーっとしていると、
無いはずの左腕が痛んだ。
────幻肢痛だ。
ズキン、ズキン、と次第に痛みが増してきて
右手で左肩を押さえるが、緩和されることはなく。
落ち着いて呼吸を整えようとするも、
段々と息が浅くなって、そのまま畳へと倒れ込んだ。
「っは、ぁ……ぅ……ッ」
これが起きる度、頭の中で、嫌な記憶が蘇る。
いくら必死に抵抗しても、許されず、
無慈悲に、無情に、腕を落とされたときの記憶。
暗い中で、冷たく鋭利な刃の感触だけがあって。
小さく指先が震え始める。
ああ、これはまずいな、と思った時には
もう遅かった。
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- 恋愛運: ★★★☆☆
- 健康運: ★★★★★
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m - コメント失礼します。題名と内容が本当に綺麗に収まっていて、とっても感動しました。読んでいてると、いつの間にかお話に入り込んでしまうような、綺麗な文章と構成に本当に尊敬します。いつか、作者様が明るい気持ちでこちらへ帰ってきてくださることを願います。 (8月16日 23時) (
レス) id: 682a324aa4 (このIDを非表示/違反報告)
塩キャラメル(プロフ) - 涙ドバドバ…大好きですもう…。主様のスピードで大丈夫です。いつでも待ってます。 (5月22日 22時) (レス) @page16 id: fdfca7d6d9 (このIDを非表示/違反報告)
なっつ。(プロフ) - すっっっごく気になる所で終わっている...ゆっくりでもいいので続き待ってます...！！ (2023年3月21日 1時) (レス) @page16 id: f68b2b1abd (このIDを非表示/違反報告)
成瀬(プロフ) - すごく好きな作品です……！ 更新待ってます！ どうか無理せずに頑張ってください (2022年12月8日 0時) (レス) @page16 id: 5abadf1a2d (このIDを非表示/違反報告)
ゆずポン美味しい - これを見るのが毎日の日課じゃぁああ！…あｯすみません！更新楽しみにしてます！頑張ってください！ (2022年8月12日 2時) (レス) id: 3d7d623247 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：Re: | 作者ホームページ：http://uranai
作成日時：2022年7月25日 19時
