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鴨肉と式場の話、または拒否−2 ページ6

ため息の行き場を無くしたAはベルの音の持ち主を確かめようと、フローリングについていた膝をのそりと起きあがらせる。骨に伝わるごりりとした鈍い衝撃に眉を寄せながら立ち上がると、冷えた空気がすんと鼻を通り抜けていった。

 Aの住むマンションの玄関扉は重い。夜に流れる川の水を閉じ込めたような黒い扉は、重厚な鉄の匂いを漂わせていつもAの家を守っている。それを家主は片手で開けると、外側へ動いた扉から不機嫌そうな甲高い音が響いた。ふと、香ってきたのは華やかな香水の匂い。きつすぎず、空気の色をさり気なく甘めに演出するその香りは、Aのよく知る人物が纏うものだった。


「やあ、食事に行く準備は整っているか?」


 視界の中心に輝く、プラチナブロンドの踊る毛先。


「お義母さん!」
「メアリーでいいといつも言っている。……――ところで、君のドレスコードはその仕事着で合っているのか?」
「あはは……、ごめんなさい食事の約束、今日だったのすっかり忘れてて準備がまだ」
「そうか。生憎と私はあまり気が長い方ではなくてな。待てる時間は今からせいぜい20分までだ」
「それだけあれば十分です」


 プラチナブロンドの持ち主――メアリーは細い腕を組んでこちらを見つめていた。とりあえず上がってくれ、という旨のことを彼女に伝えると、息子とよく似たエメラルドグリーンは横へと揺れる。


(ロビー)で真純が待っているんだ。君が下りてくるまで私もそこで待っているよ」





▼▼▼





 クローゼットから引っ張り出してきた落ち着いたアティックローズの赤を香らせるワンピースに着替えたAは、黒を灯した7cmヒールを高らかに鳴らして玄関を出る。数分ほどエレベーターの駆動音に耳を傾ければ、すぐにメアリー達の待つロビーへと辿り着いた。
 パッと輝く若い緑の瞳を捉えたのは、すぐのこと。


「Aさん! 元気してたかー?」
「やっほー、真純ちゃん。相変わらず社畜やってて毎日大変」
「なら、今日は思う存分食べて力をつけるといいよ。今から行くお店、鴨料理が美味しいんだって」
「一緒に出されるワインも素晴らしいぞ」
「えー、楽しみです」


 女三人寄れば姦しい、とはまさにこの事。一気に華やいだロビーを早足気味で後にする三人の背中を、マンション受付のスタッフが眩しそうに見送った。

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白色ますく(プロフ) - しつこい赤井さん、、良い、、、最近になってさかなさんの作品と出会ったのですがどれも大好きです!楽しみに待ってます!! (2020年4月6日 23時) (レス) id: 2410caaa77 (このIDを非表示/違反報告)
さかな(プロフ) - まなかさん» コメントありがとうございます。現在私生活がごたついておりまして、更新はかなり先のことになりますがよろしければ気長にお待ち頂けると嬉しいです。 (2019年8月1日 18時) (レス) id: 05b7949c50 (このIDを非表示/違反報告)
まなか - 更新楽しみにまってます!!! (2019年8月1日 10時) (レス) id: f543e68d0e (このIDを非表示/違反報告)
さかな(プロフ) - 水落さん» コメントありがとうございます!比喩表現には力を入れているつもりでしたので、お褒めの言葉とても嬉しく思います。遅筆ながら頑張りますので、応援いただけると僥倖です。 (2018年11月4日 2時) (レス) id: 9a66748afd (このIDを非表示/違反報告)
水落(プロフ) - 比喩表現がとても素敵でした!これからも応援してます! (2018年11月3日 8時) (レス) id: 1398ffddc4 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:さかな | 作成日時:2018年10月8日 17時

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