給料3ヶ月分の行方−4 ページ4
「断ったんだって？ 赤井のプロポーズ」
翌日登庁したAを待っていたのは、降谷のそんな言葉だった。
「誰から聞いたの、それ」
「ヒント、万年ニット帽」
「把握したわ」
黒革のショルダーバッグを肩から下ろしながら聞けば、彼女の恋人を象徴するような単語が返ってくる。隣の椅子に腰掛けた降谷は、からかうような、それでいてどこか焦ったような複雑な顔色をしていた。ちなみに彼が我が物顔で座っている椅子は、去年配属された青年Aのデスクである。
「あの人まさか皆に言いふらしてるの？ 自分のプロポーズを断られたこと」
「さあ。最初に僕に話して、それである程度気持ちに整理をつけたんじゃないか」
「気持ちに整理をつけたんだったら、私の着信履歴が秀一さんで埋まってるのは一体なんなんだ」
「埋まってるって。何件ぐらい？」
「30件」
「うわっ。ほとんどストーカーに近いな」
「私がうっすらと思ってても言わなかったことを……」
ため息と呼吸の中間みたいな息を吐いて、Aは石ころ一つぶんの重さを背もたれにかけた。ぎしりと嫌な音をたててネズミ色をした椅子は後ろに傾く。
降谷はそんなAの様子を横目に書類へ向かい、意識だけは隣に座る赤井の苗字になり損ねた女へと注いでいた。
「……まいった。お前が赤井の姓を名乗ってるところがまったく想像できない」
「私も思ったそれ。私は一生獅戸の姓を抱えて生きてくよ」
「お前のやりたいようにやればいいさ」
「おっ、じゃあ降谷は現状維持派か。これは頼もしい味方が来てくれた」
「は？ なんだそれ」
何もはまっていない左薬指を意味ありげに見つめ、独り言を漏らすような口振りで放たれた言葉に降谷が反応する。自身の指先を視線で撫でながらAは言葉を肺の外へと走らせた。
「来日中のFBIチームはもうすっかり私のことを身内みたいに思ってるらしいから。今の内に手を打っとかないと、彼らに外堀を埋められて道が一つしかなくなる」
「赤井秀一の妻になる道？」
「そ。とんだ修羅道でしょー」
「もし俺が
「そうなったら南極にでも逃げ込むしかないね」
赤井なら南極だろうが北極だろうがお前を追いかけに靴を履くと思うがな、という言葉は飲み込んだ。多分、女もそれを分かっている。開きかけた口の着地点を見つけようと降谷が代わりに吐き出したのは、当たり障りもない無味乾燥な言葉だった。
「――ところで赤井の給料３ヶ月分の行方は？」
「タンスの肥やしになってる」
「うわもったいないな」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 158人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「名探偵コナン」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
白色ますく(プロフ) - しつこい赤井さん、、良い、、、最近になってさかなさんの作品と出会ったのですがどれも大好きです！楽しみに待ってます！！ (2020年4月6日 23時) (
レス) id: 2410caaa77 (このIDを非表示/違反報告)
さかな(プロフ) - まなかさん» コメントありがとうございます。現在私生活がごたついておりまして、更新はかなり先のことになりますがよろしければ気長にお待ち頂けると嬉しいです。 (2019年8月1日 18時) (レス) id: 05b7949c50 (このIDを非表示/違反報告)
まなか - 更新楽しみにまってます！！！ (2019年8月1日 10時) (レス) id: f543e68d0e (このIDを非表示/違反報告)
さかな(プロフ) - 水落さん» コメントありがとうございます！比喩表現には力を入れているつもりでしたので、お褒めの言葉とても嬉しく思います。遅筆ながら頑張りますので、応援いただけると僥倖です。 (2018年11月4日 2時) (レス) id: 9a66748afd (このIDを非表示/違反報告)
水落(プロフ) - 比喩表現がとても素敵でした！これからも応援してます！ (2018年11月3日 8時) (レス) id: 1398ffddc4 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：さかな | 作成日時：2018年10月8日 17時
