【名探偵コナン】0.3ctから逃げ出せ【赤井秀一】

給料3ヶ月分の行方−2 ページ2

降谷が吐いたため息には二つの意味がある。

　一つは厄介な人間が二人くっついた、という憂鬱と、もう一つはお前よくアイツにプロポーズしたな、という呆れであった。なるほどなるほど。ついに求婚の言葉を口にしたか、せっかちめ。獅戸は言葉一つで一生を誓ってくれるような簡単な人間じゃないぞ、というのが今の降谷の心境である。


「ずばり、断られましたねあなた」
「あぁ。一刀両断だった」
「どんな風に？」
「『え、無理です』の一言だけ」


　似てもいない恋人の口真似をする赤井の滑稽さに吹き出しそうになるのを堪えながら、降谷はへぇと口にする。赤井秀一のプロポーズを、『え、無理です』という言葉で断る獅戸A、というのがあまりに想像するのが容易くて口角が上がった。


「アイツらしいな」
「教えてくれ降谷君。俺はいったい何が悪かったんだ」
「なんで僕に聞くんですか。僕とアイツはただの同僚ですよ。恋人であるあなたが自分の胸に聞いてみるのが一番だと思いますけどね」
「それは昨日の晩から今日の朝まで何遍もしてみたさ。それでも分からないから、こうして俺よりもAとの付き合いが長い君に聞いてるんじゃないか」
「なんだ、女に振られたぐらいで徹夜したのか。どうりで目の隈の主張がいつもより激しいはずだ。ひっどい顔色ですよ」


　軽口を叩き、赤井のもとで滞っていた仕事に対する鬱憤を少なからず晴らした降谷は、満足そうに鼻を鳴らす。いつの間にか二人以外の人間は出払って姿を消していた。

　降谷はもう一度薄ら寒いコーヒーを啜り、悲壮の色を浮かべながらそれでも煙草を喫むことをやめようとしない赤井の姿を意味もなく眺める。呼吸に似た間隔で天井に向かっては途切れる白煙が光に透けた。


「一応訊きます。浮気は？」
「もちろんしていない。向こうもない……はずだ」


　プロポーズを断られたことで自信をなくしたのか、赤井はわずかに言いよどむ。


「なら、ありきたりですけど嫁姑の確執とか」
「母とAは、真純を連れて三人だけで旅行に行くような仲だぞ？ ありえない」
「ふむ。――で、僕が知るかぎりあなたたちの仲は良好。確かにあなたに問題は無さそうですね」
「そうだろう！ 問題はそれなんだ」
「問題がないのが問題ですか」
「どうすれば彼女は俺の給料３ヶ月分を薬指に収めてくれるだろう」
「現在独身で恋人もいない僕に聞きます？ それ」

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