給料3ヶ月分の行方−1 ページ1
「悲壮感がうるさい」
ボールペンを口元に当て、書類に目を通していた降谷は文字列から目もそらさずにそう吐き捨てた。周りにいた数人がギョッとしたように降谷の方を振り返る。無論、男の言葉は彼らに向けられているわけではない。その奥で頭を抱える、室内でもニット帽を脱がない不健康なアメリカ人に言っているのだ。
「いつまでその格好でいるつもりですか。あなたが目を通さないと進まない案件が山ほどあるんですよ。悲劇に浸るのはそれ全部終わらせてからにしてください」
「ひどいぞ降谷君。同僚がここまで悲しみに暮れているというのに、労りの言葉一つくれないなんて。君の体には紫色の血が流れているに違いない」
「紫でもなんでもきちんと仕事をこなしている以上、あなたよりは立派な人間だと胸を張って言えますよ僕は」
分かったら仕事しろ。手に持ったボールペンをナイフのように扱いながら、降谷は厳しい視線を向ける。部下を叱る時の、獅子のように恐ろしい形相であった。
沈黙。
静寂。
無音。
時計の針が三周する間、二人はそのまま口を開くこともなく。キーボードを叩くカタタという音と、赤井の青さを含むため息の耳障りな振動だけが部屋に満ちた。降谷の意識は再び手元の書類に向けられ、この前解決した情報窃盗事件の報告に全ての脳細胞を働かせる。
「――なあ、降谷君」
「…………」
「少し、聞いてもらいたい話があるんだが」
「…………」
「沈黙は肯定ととるぞ。実は昨晩、」
「ああ、もう！ 悲壮感だけじゃなく口もうるさいな！ あなた、もっと無口な人間じゃありませんでしたっけ」
ペンを放り投げる。デスクの上を走ったそれは、キーボードの厚みに阻まれて足を止めた。
「余計なことは言わない主義なだけだ」
「それにしては失言が多すぎる気がしますけどね。来葉峠であんたが景光について言及したこと、忘れてないからな」
「君はことあるごとにそれを持ち出すな。悪かったと言っているだろう」
「それで済むなら僕たち警察はいらないんですよ」
降谷が脇に置かれたカップに手を伸ばす。一時間も前に淹れたそれはすっかり冷えており、ぬらりと喉を通ったそれに首筋がスッと寒くなった降谷は背広の襟を正した。
出し抜けに、言葉が落とされる。
「――プロポーズをしたんだ」
「……は？」
「プロポーズを、した」
「だれに」
「君もよく知っているだろう」
「
「そうだ」
「はぁぁ……」
赤井が気を落ち着かせるように煙草に火を付ける。薄く吐かれた白煙は、音もなく換気扇へ飲み込まれた。
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白色ますく(プロフ) - しつこい赤井さん、、良い、、、最近になってさかなさんの作品と出会ったのですがどれも大好きです！楽しみに待ってます！！ (2020年4月6日 23時) (
レス) id: 2410caaa77 (このIDを非表示/違反報告)
さかな(プロフ) - まなかさん» コメントありがとうございます。現在私生活がごたついておりまして、更新はかなり先のことになりますがよろしければ気長にお待ち頂けると嬉しいです。 (2019年8月1日 18時) (レス) id: 05b7949c50 (このIDを非表示/違反報告)
まなか - 更新楽しみにまってます！！！ (2019年8月1日 10時) (レス) id: f543e68d0e (このIDを非表示/違反報告)
さかな(プロフ) - 水落さん» コメントありがとうございます！比喩表現には力を入れているつもりでしたので、お褒めの言葉とても嬉しく思います。遅筆ながら頑張りますので、応援いただけると僥倖です。 (2018年11月4日 2時) (レス) id: 9a66748afd (このIDを非表示/違反報告)
水落(プロフ) - 比喩表現がとても素敵でした！これからも応援してます！ (2018年11月3日 8時) (レス) id: 1398ffddc4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：さかな | 作成日時：2018年10月8日 17時
