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四年前となにも変わらない、ライムグリーンの瞳が酒場の喧騒に揺らされて降谷のことを見つめていた。熱気に茹だった肌はほんのりと赤く染まり、浅い呼吸のたびに耳元のピアスがゆらゆらと宙にそよぐ。目の前の彼女は眩しいぐらいに、生きていた。
「…………
「うん」
「生きてたのか」
「うん」
「そうか……」
かすれた声が溶けては消える。一瞬、降谷の表情が普段の様子からは考えられないような、今にも泣き出しそうな弱々しいものになったのを、久世と深海の男は目で捉えた。おそらく降谷は自分がそのような顔を晒しているということに気づいていない。ただ、都合の良い夢のような目前の光景を呑み込むのに必死だった。
「夢じゃないよな」
「なんなら触って確かめてみる？」
「それは――」
手を伸ばしかけて、やめた。到底死体だとは思えない柔らかな肌に触れようとして、しかしやっぱり触れることができなかったら、この光景が夢という現実に押しつぶされてしまいそうだったからだ。実際、降谷はこういう夢を見たことがある。
そんな降谷の不安を敏く感じとったのか、久世Aは瞳を緩ませてほうっと息を吐く。僅かに彼女がよく付けていた香水の匂いが漂ってきて、懐かしさに気が狂いそうになった。
「ごめん。勝手にあなたの前から消えたりして、本当にごめん」
深く、深く。Aが頭を下げる。その表情は床に向けられていて窺うことができないが、声は震えておりひどく痛ましげだ。
「ずっと、それだけが心残りだった」
その言葉が吐かれた後にゆっくりと顔が上げられる。照明に照らされた肌は、四年前の記憶よりも初春に残る雪のような危うい白さに見えた。
光の加減で濃度がゆらゆらと変わるエメラルドの瞳を見つめながら、降谷はこの四年間を思い出してみる。エメラルドが姿を消した日々は、どんな心地だった？
「僕は……、久世が死んだと聞いたとき、地面が無くなったような感情に襲われた。僕の生きて欲しい人は、みんな死んでいくんだ。辛かったよ。墓に眠るお前の死体を掘り起こして胸ぐらを掴みたい気分だった」
「……降谷、」
「でも、多分お前の方が僕の何倍も辛かっただろ。分からないが分かる。久世はこの四年間をずっと死んだまま過ごしていたんだ。そんなお前を責めるなんて、僕には出来ない」
だから、精一杯の笑顔で君の帰還を手放しで祝ってあげよう。
「おかえり」
「うん、ただいま」
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さくらんぼ＆チェリー - 更新待ってます。面白お話を書いてくださり、本当にありがとうございます。感謝してもし着れません。 (2019年9月1日 15時) (
レス) id: fed8378344 (このIDを非表示/違反報告)
さかな(プロフ) - ◎たなは◎さん» ありがとうございます！ちゃんと最後まで紡ぎ、終わりを編めるよう努めますので、よろしければいつでもご観覧ください。 (2018年8月10日 18時) (レス) id: 9a66748afd (このIDを非表示/違反報告)
◎たなは◎(プロフ) - さかなさんの紡ぐ新しい世界を待ちわびていました。素敵な物語、読めて嬉しく思っています。これからも楽しみです。 (2018年8月10日 17時) (レス) id: 302b94aee9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：さかな | 作成日時：2018年8月10日 15時
