十人十色、恋模様【短編集】 (ページ8)

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＊国木田さんと「扱い」ページ8

「やっほー乱歩さん、遊びに来たよ～」

「随分久しぶりだねぇA、何か面白い事件とか持って来てくれた？」

「残念ながら私や貴方には簡単すぎる案件しかなくてね～.....

それに最近は事件そのものが中々起きなくなってしまっているから退屈で死にそうだよ」

「ふふん、そんな君に朗報だ、はいこれポーくんの新作」

バサッ、と音を立てて机に無造作に置かれたそれは、退屈を紛らわす道具としては申し分ない代物。

「相変わらず執筆ペースが早いねぇポーくんは！
ところで乱歩さんは何秒で解いたの？」

「8秒」

「ふーん？読み切らなくてもわかっちゃうってわけか。それじゃあ小説の中身を楽しむのは推理の後かな」

そう言いながら本をいそいそと開き、ざっと目を通す。

「....へえ、成る程ね、犯人は主人公のこの秘書の男...秘書になって大企業の裏側を見たが、その仄暗さに彼の強い正義感が耐えられなかったってところかな。よし、何秒？」

「9秒5。今回は僕の勝ちだね！」

「あっちゃー、負けちゃったか」

悔しいなあという私とは裏腹に、鼻歌なんて歌いながらラムネを飲み干すご機嫌な乱歩さん。

そんな余裕なのも今のうちだぞ次は私が勝つ。

ひと勝負終えた後、お菓子をつまみながらする彼との雑談の時間は毎度毎度とても面白い。

今回のテーマは先ほどの小説に出てきた犯人の男のようだ。

「それにしてもあの男、誰かに似てるんだよねぇ～～なんか既視感あるんだよなあ、頑固な感じとか」

「国木田じゃないか？」

「あっ、絶対それだ！国木田くんとそっくり！」

いつも眉間にしわを寄せて理想を追求する彼、国木田独歩。

彼もまた正義感の強い、頑固で不器用な青年なのだ。