近すぎて遠くて。(hk×in) (ページ8)

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今日はお休みだったから、ひかると会いたかったのに昨日あんな別れ方したから誘えなくて、ひかるからもお誘いはなくて。

ドアががちゃっと開く音が微かに聞こえたから、ちょっと外を見てみるとベースを背負って家を出て行くひかるが見えた。

どこ行くんだろ、また薮に会うのかな、なんてまた負の感情でいっぱいになりそうになって…

今の状態で弾いてもあんまり練習にならないことはわかってるけど、ピアノを弾くことにした。

途中妹がご飯だよって呼びに来てくれたけど、普段からは考えられないくらい全然食欲はなくて、まだしばらく1人でいたくて。
あとで食べる、と素っ気なく返事をした。

ひかる何してるのかな、やっぱり面倒だって思ったのかな、明後日も一緒に学校行けるのかな、なんて…

いつの間にか本当に頭の中はひかる一色で。

自分が弾いてるピアノの音もイマイチ聴こえていない。

「いのちゃん！」

それでもひかるの声が聴こえた気がして。
振り返ると、なんだかちょっと怒ってるみたいな、でも寂しそうな、そんな目をして俺を見てるひかるがいた。

さっきまで色々考えてたけど、やっぱり会いに来てくれたっていう事実はうれしくて、幸せを感じてしまったんだ。

でもやっぱり、このままじゃ嫌で、一刻も早くひかると仲直りしたくて、また一緒に笑いたい。

「…いのちゃん、泣いてたの？」

昨日は確かに何故だか涙が止まらなくて、今日は休みだからそれを止めることもしなかったんだけど。

そんなぱっと見ただけでわかるくらい腫れてたのか…妹が怪訝な顔をするわけだ。

謝ったらひかるも謝ってくれて、その後延々とごめんね合戦になりそうだったところに、ひかるが一緒に練習しよって言ってくれた。

やっぱりひかるは俺のことわかってる。

ひかるが弾くベースに俺が弾くピアノの音が乗る。2つとも伴奏を担当することがほとんどだから、メロディーのない、なんの歌かわからない演奏になっちゃうんだけど、

それでも昔から、ひかると音を創っていくこの時間は心地いい。

「あれひかる、そこ違くね？」
「うわマジだ…いのちゃん全然間違えないね、本当ごめん…」

俺たちは2人とも、みんなの前だと全然そんな風には見せないけど実は結構メンタルは弱めだ。

どんどんごめんねモードになるひかるはかわいいけど、やっぱり笑顔が好きだから。

「ねぇひかる、そういえばご飯食べた？」
「あ、食べてないや…」
「俺もまだなんだ、一緒に食べよ？」