銀色の災いは炎の人に恋をする (ページ9)

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怪物sideA ページ9

猛々しい吠え声が衝撃波と共に海を震わせると同時に、バキバキバキ！と、ものすごい音がした。

衝撃波で、Aの前方にいた2隻の軍艦が損傷した音だった。
唖然と銀色の狼に変身したAを見つめる俺たちの前で海軍が慌てふためく。

「少将！あれ…あの狼は…15年前にデザー島の村を殲滅した怪物です！」
「なんだと⁉その怪物がなぜ白ひげのもとにいる！！！」
「少将！損傷を受けた軍艦2隻が沈没します！！！」
「ぐう…全艦、砲撃用意！標準をあの怪物に合わせろ！！！」

海中に響く声に俺は焦った。
カッコいい銀色の狼の姿になったとはいえ、俺の知る彼女は美しく儚い印象の彼女だから。

「A！！！」

俺が飛び出す前に彼女が飛び出した。
ぐぅぅぅふ…と低い唸り声をあげて前足振り上げる。

『オ前ラノ血ヲワタシニ寄越セ！！』

大砲の弾が空で爆発した。

「すげえ…」
「感心してる場合じゃねェよい！！Aのやつ、完全に暴走した…あのままじゃここにいる全員が危ねえ！」

マルコが叫ぶと同時にドゴォ…ン！と音がした。
見ると、全ての軍艦が沈むところだった。
喚きも叫びもなく、静かに腹に響く音のみをたてて。
あいつ、こんなに強かったんだ。と思ってたらスタンッと甲板に銀色の前足が降り立った。
ブワリとした殺気が肌を突き刺す。
これは…やばいかもしれない。

『ぐぁぁぁあう！』

迫る牙を咄嗟に押し返しながら叫んだ

「A!落ちつけ！」
エース！と叫ぶ声がした。と同時に肩に痛みが走った。血がドクドク溢れる。それでも叫ぶ。その声が届くと信じて。

「A！」

狼の瞳が揺らいだ気がした。頭の中に微かに響く声

『エー……すッ…たすけ…！』

狼が苦しげな声を一つあげた。
目の前には親父が立っていて黒い紐で狼を縛り上げて、するりと解いた。
狼はAの姿に戻って俺の上に倒れる。

「マルコ、イゾウ。二人を医務室まで連れてってやれ」

俺はマルコに肩を担がれ、Aはイゾウに背負われる。

ぐったりとするAを背負っているイゾウに歯ぎしりしながら俺はさっきの銀色の狼と無防備に眠る彼女のことを考えていた。