伸ばした手を２ (ページ9)

今日:2 hit、昨日:0 hit、合計:114,193 hit

No.59 ページ9

.

運転手さんからお上手ですねぇ。と褒めてもらってちょっと照れてしまったけれど本番ではもっとしっかりしなければ。

頑張ってね。と運転手さんの言葉を笑顔で受けてスタジオの前に立てば、オーディションを受けた時の様に胸がドキドキした。

戻ってきた。
やっと戻ってこれたんだ…

大きく深呼吸してスタジオの入口をくぐれば慌ただしく動くスタッフさんの声、ロビーの匂い懐かしい雰囲気。

そのどれもに胸がいっぱいになる。

ロビーの端にいた秀明くんが手を上げていたけれど近づいてきたら困ったような顔をしていた。

滝「なに泣いてんだよ。」

慌てて頬を触れば確かに濡れていてカバンから取り出したハンカチで拭った。

『何か、嬉しくて…胸いっぱいで…』

滝「そっか…お帰りA。」

『ただ、いま…。』

ほら、行くぞ。と台本を渡されて流れを頭に叩きこんだ。

薄いけど、しっかり重い。

滝「収録まであと30分ある。それまでに何とか形にするように。」

大部屋に近づけばキュッと床に擦れるスニーカーの音。

懐かしい…戻ってこれた…

滝「ほら、行ってこい。」

部屋の扉を開けた秀明くんに背中を押され中に入れば中に居た人たちの動きが止まった。

向けられた視線

震えそうになる足に力を入れて一歩踏み出し頭を下げた。

「「A！」」

名前を呼ぶ声に恐る恐る顔を上げれば、目の前に泣きそうな陽菜と茉莉がいて

待ってた、ごめんね。と陽菜に抱きつかれあっという間にたわわな胸に顔を埋める事に。柔らかいしいい匂いがする。