伸ばした手を (ページ10)

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No.10 ページ10

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そしてそれは1年経った今でも消えず、それこそが真実だと罷り通ってしまった。

Aが今どんな状態なのか確認しようにも番号もアドレスも何もかもが変わっていて直接連絡が取れなくなってしまった。

スタジオで会ったとしても、他者と距離をとりAは一人でいた。

周りに気づかれない程度に目が合えば、小さく笑って返してくれる。

それだけで胸があたたかくなった。

けれどそれは

─大丈夫だから。─と軽く突き放されている気がして、声をかけることも出来ないでいた。

いつもなら軽々とクリア出来るゲームは、何度挑戦してもクリアなんて出来るはずもなく、気づけば空が白み始めていた。

地面に打ち付ける雨粒

真夏であるというのに空はどんより暗くて重い雲が広がった。

こんな日はどんなに踏ん張ろうとも気分は重く、慣れ親しんだはずの倦怠感が私を強く襲う。

傘立てに傘を突き立てドアをくぐる

宙に浮かぶようにフラフラとする足元、揺れる視界。

ああ、もうそろそろか、、
でもまだ、もう少しだけ頑張って…

そう自分に強く言い聞かせて、少し立ちどまり壁に肩を預けて少し休憩を取る。

もう少し、もう少しだから
お願いだからもってね、私の身体。

小さく深呼吸を繰り返していると、誰かに肩を掴まれ思わず身体が跳ねた。

「どした？体調悪い？」

こちらを覗き込んできたのは辰哉くん。
周りを見渡し誰もいないことに胸を撫で下ろした。

私といる所を誰かに見られてしまったら辰哉くんまで何か言われてしまう。

それだけは絶対に避けなければ。

深「ここなら誰も来ないだろうから。」

そんな辰哉くんに背を押され、スタジオの奥にあるソファに座らされた。