伸ばした手を (ページ49)

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No.49 ページ49

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『はい、亮平くん。飲むでしょ？』

Aはいつの間に握っていたのか瓶ビールをこちらに向けている。

真新しいグラスを手に取れば、琥珀色をした液体が泡をたて注がれていく。

幸せだなぁ。なんて考えているうちにAの飲み物も届き、佐久間の仕切りで皆片手にグラスを持った。

佐「Aの退院を祝って、かんぱーい！」

『わぁ！ありがとう！』

皆がAとグラスを合わせ、最後に俺とカチンと合わせると嬉しそうに笑いグラスに口をつけた。

その姿を見ながら飲んだビールは今まで飲んだ中で一番美味しい。

舘さんを中心にあれ食べなこれ食べなとAの前に色々持ってくるけれどあれダメ、これダメしていたらお前は保護者か。と総ツッコミされた。

それにめげず選別した料理を食べながら楽しそうに話したり笑ったりするAを見て、連れてきてよかったと心から思った。

正直なところ、早いかなとも思っていて。

Aが退院して暫く経った頃、滝沢くんと食事に行く機会があった。

迎え行ってくれてありがとうなんて言われたけど、それまでの事を考えばお礼を言われるような立場じゃない。

そんな俺を見透かしたかのように滝沢くんはスっと目を見据え話しておきたいことがあると。

滝「Aの見た目はかなり良くなってる。それは会って分かっただろ？」

でもなと、少し神妙そうな面持ちで続けた

滝「見えない傷はまだ根深く残ってる。何かの拍子に思い出すんだろうな……急に虚ろな目になって、俺ですら触ることを拒否される。」

阿「そう、ですか……。」

それでもかなり減ったんだよ。なんて滝沢くんは笑っていたけど、それは見ているこちらが心苦しくなるような笑顔で

俺らはAだけじゃなく、滝沢くんにまで傷を残したんだという事実にテーブルの下で拳を握った。